第十二話 遊びに行く前の一仕事
◇
玲達を見送った後、依頼達成を報告した僕はすぐに家に帰った。リリさんに僕の話の続きをしようとしたが、冒険者ギルドの同僚に引き摺られていってしまったのだ。どうやら、仕事をサボって討伐隊を見に行っていたらしい。
翌日になると、既に昨日の騒ぎは収まっていた。いつも通りの賑やかな街だ。
「さて、討伐隊は旅立ちましたが、私達はどうしますか?」
「……どうするって?」
舞が唐突に聞いてきた。けど、質問の意図が分からない。
「いえ、奏多のおかげで少しずつ資金にも余裕が出てきました。なので、このタイミングでもう一度方針を決めておこうかと。奏多も、ずっとこの街にいるつもりではないでしょう?」
「拠点にはするつもりだけど……」
確かに、ずっとここにいようとは思っていなかった。
魔王討伐はどうでもいいけど、色々な街や国の観光はしてみたいし、人間以外の種族とかも見てみたい。
「舞は?何かしたいことないの?」
「特には。なので、奏多に決めてもらおうかと」
「うーん……」
急すぎて迷うなぁ。
悠なら何がしたいだろう。悠は結構アクティブだったし、活発な子だったから、観光とかがいいかな。
「っていうか、そんなお金あるっけ?」
「はい、任せてください」
と、豊満な胸を張る舞。彼女には前科があるからちょっと不安だけど、まあ信じるしかない。家計を任せてるしね。
「じゃあ、観光とかしない?僕としては、西の第五地区に行ってみたい」
「観光!いいですね!私も第五地区には興味がありました。確か、芸術と娯楽の街でしたよね?」
「そうそう。楽しそうだよね」
舞がどこかワクワクしている。
悠の使用人兼護衛を自称する彼女は、その立場上遊んだりすることが出来なかった。だから、こういった経験はないと言っても過言ではないのだろう。
「行きましょう!観光に行きましょう!」
「分かった分かった」
思わず苦笑しながら答える。こうして見ると、本当に年頃の女の子だ。
僕達はまだ17歳。これが、本来の在り方だと思う。
「ほら、早く計画を立てましょう!いつ行きます?移動手段は?どれぐらい滞在しますか?」
「……ちょっと落ち着こうか」
流石にはしゃぎすぎじゃないか?
まあとにかく、こうして第五地区への観光が決まった。
◇
「っていうことで、遊びに行っていいですか?」
「……なぜ、それを我に聞く?」
「僕達勇者はこの国に所属しているみたいなので。許可は取っておいた方がいいかと」
「……王である、我に?」
「だからこそ、です」
僕は第五地区観光を実行に移すために、ガルダーク王に許可を取りに来ていた。
本当なら亮介先輩に聞きたかったけど、彼は討伐隊と共に旅に出てしまった。そして他に聞けるような知り合いがいなかったので、とりあえず王様に聞くことにした。
「……はぁ、勇者が我に話があると言うから時間を作ったのに、まさかそんな話とはな」
ガルダーク王はため息を吐く。前見た時より、どこか疲れているように見える。
「……よし、許可しよう」
やったね。
「ただし、条件がある」
……ちぇ。
「なんですか?」
「……まだ国民には知らせていないのだがな。実は昨日の夜、この城でメイドが殺された」
「この城で?」
「そうだ。他の勇者にも知らせていない。これは、この国の威信に関わる問題だ。例え勇者だろうと、そう簡単に言えるものではない」
確かにそうかもしれない。でも、
「なんで僕にそれを?」
正直、嫌な予感しかしないけど。
「この件の下手人を、カナタに捕らえてもらいたい」
「いやいや、僕にそんなことでき」
「これを解決してくれたなら、旅行の許可を与えよう」
「やります」
仕方ない、一瞬で片付けてやる。悠と舞との旅行のためだ。誰が犯人だろうと、容赦はしない。
◇
「ってことで、解決するまで城で過ごすことにした」
「分かりました。私達も一緒に行きます」
一度家に帰り、ガルダーク王とのやりとりは話した結果、舞は即答した。
「……え?いや」
「私達も行きます。行きますよね?悠様?」
「いやいや、悠に聞いても……」
舞に突っ込もうとしたが、悠は虚ろな目のまま、少しだけ、本当に少しだけ頷いた。思わず瞠目する。
「……分かったよ」
舞だけでなく、悠にまでそう主張されたら断れない。結局僕が折れ、三人で王城に行くことになった。
僕達三人は同じ部屋に泊まることになった。
ガルダーク王曰く、犯人はまだ分かっていないが、内部犯の可能性も充分あるとのこと。そんな危険な城で、彼女達と離れ離れになるのは避けたかったからだ。
あ、もちろん、ベッドはちゃんと離すからね?
「あ、奏多君じゃないか」
「やあ、京一。久しぶりだね」
石橋京一。怒りという感情を持たない彼はびっくりするぐらい穏やかだ。だから、僕も気兼ねなく接することができる。
「なんでここに?」
「まぁ、ちょっと理由があって。しばらくはこの城で暮らすことになったんだ」
「へぇ、それは良いね。僕はずっとここにいるし、また遊びに来てよ」
「何か用事でもあるの?」
「うん、まあ、待機組とはいえ勇者だからね。国の世話になってるだけっていうのも居心地が悪いし、少しは働くさ。とは言っても、荷物運びとかそういった雑用だけど」
「それも立派な仕事だよ。じゃあ、邪魔するのも悪いしここらで」
「うん、またあとで」
京一と別れて、僕は事件現場に向かう。
城の二階、廊下のど真ん中で死体が見つかったらしい。近くにはいくつかの部屋があるのに、叫び声などは一切聞こえなかったらしい。
「奏多」
現場には既に舞がいた。隣には悠がいる。
「ここか」
床には血痕が残っていた。結構至る所に飛び散っている。随分派手な殺し方をしたもんだな。
少し離れた床に点々と垂れている血も気になる。それを目で辿れば、やはり血溜まりの跡があった。
まずい。
全然分からん。
「……僕、探偵じゃないんだけどな」
高校生から勇者、そして探偵。望んでもないのにジョブチェンジし過ぎだろ。
「なにか分かりましたか?」
「全然。舞は?」
「全く。よく考えたら、この世界に来たばかりでは難しいですね」
まあ、スキルやら魔法やらがある世界だからな。誰に殺されたのかどころか、なにで殺されたのかも分からない。
「これはあれだね。先にある程度の情報を貰っておくべきだった」
「普通、それは当たり前だと思いますけど……。そうですね、とりあえず先に聞き込みをしましょう」
ちょっと逸りすぎたか。とにかく、事件の詳しい概要も聞きに行こう。
と、始めた聞き込みだったが、大した情報は得られなかった。
強いて言うなら、死体は両腕と首が何かで切断されていたということぐらいだ。だが、それは魔法によるものなのか刃物によるものなのか分からない。
結局、何も分からない。
「それにしても、警戒心が希薄過ぎます。城の中で殺人が起きたというのに、警備を強化する訳でもなく、私達に全て委ねるとは。この国の王は何を考えているのでしょうか?」
「その王様がいる城でよくそんなこと言えるね」
つい苦笑してしまう。多分、楽しみにしている観光のことを考えると苛立ってしまうのだろう。
「それにしても、どうしようか?もう一度事件が起きるまで待つ?」
「……どうしましょう。それがいいかもしれませんが……流石に、誰かをエサにするような作戦は……」
まあ、舞ならそう言うと思ったけど。
「じゃあ……はぁ、僕が囮になるか」
「奏多、それはダメです。それなら私が」
「いやいや、こんな危険な役目、女の子には任せられないよ」
「っ、ダ、ダメ……です。奏多にもしものことがあれば、悠様は……!」
「大丈夫だって。そんなに心配なんだったら、犯人を見つけた時に助けてくれよ」
「……はぁ、分かりました。奏多は一度決めた事は変えませんしね。その代わり、本当に危ないと思ったらすぐに逃げてくださいよ?」
「はーい」
おざなりに答えておく。もちろん、そのつもりはない。
この日の夜、僕は囮役として犯人を誘き出すために、城の中を一人で歩き回った。
そして、邂逅した。
◆
体が熱い。体が疼く。体が求めている。
「ハァ、ハァ、ハァ」
自分の荒い息遣いが聞こえる。
我慢も限界だ。一度やってしまえば、もう我慢はできない。
性器が熱い。性器が疼く。性器が求めている。
悦びが欲しい。快楽が欲しい。
「ハァ、ハァ、……見ぃつけたぁ」
視界に男が入った。私は女をヤるのが好きだが、今は拘らない。男でもいい。
「こんばんはぁ」
「こんばんは」
意外なことに、挨拶を返された。昨日の夜にここで人が一人殺されたばかりだというのに、呑気な事だ。
「……君が、犯人だったんだね。なら、『クラスE』にいる快楽殺人犯っていうのは、君だったのか」
「あははぁ、なぁんでこんなとこに君がいるのか分からないけど、仕方ないよねぇ?もう私、我慢できないもの!」
「僕を……殺すのかい?もしも君が自首するなら、見逃してもいいけど」
なにを馬鹿な事を言っているのだろう?私はもう、疼いて仕方ないのに!
「するわけないでしょう?ごめんねぇ?クラスメイトをヤるのって初めてだけど、すっごい興奮するねぇ!」
「……随分、下品に笑うんだね。普段の君からは考えられないよ、仁和寺さん」
「君の知ってる私って、あの気の弱い方の私でしょ?私、いっつもとオドオドしてて嫌いなんだよねぇ」
「……そっか、君は、多重人格者だったのか」
私達は二重人格で、私は人を殺すのが大好き。それでしか快楽を得られない。だから、殺す。
私は気の弱い根暗な女。自己主張もままならない。だから、私とは合わない。
そう、だから答えなければならない。黙ってはいけない。認めなければならない。
私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格。私は二重人格私は二重人格私は二重人格私は二重人格私は二重人格私は二重人格私は二重人格私は二重人格私は二重人格私は二重人格……
「あは、正解正解大正解!よく分かったねぇ!まぁ、それが分かったところでヤることは変わらないけど!」
「はぁ、やっぱりこうなるか。仁和寺さん、君が二重人格だったのは予想外だし、僕の知ってる君には何の恨みもないけど……そっちの君は、正直邪魔だ。自首しないって言うんなら……やるしかないよね?」
雲が晴れ、月明かりが差してきた。その光に薄っすらと照らされた氷室奏多は、少し癖のある黒髪を搔きあげる。その顔は、不気味なほどに無表情だった。




