第十一話 勇者の旅立ち
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僕が街に帰った時には、既に討伐組は街中を歩き回っているところだった。国民にその姿を見せてから、この第一地区を出発するのだ。
ちなみに、このアルティアには五つの街がある。
僕達が召喚されたこの街が、中央の第一地区。首都の役割を持つ。
そして北にあるのが第二地区。そこでは特に貿易を司っている。
南にあるのが第三地区。商人や旅人がよく集まり、商業がよく発達している。
東にあるのが第四地区。闘技場や職人が集中しており、鍛錬を目的とした猛者が集まる。
最後に、西にあるのが第五地区。アート作品によって街が形成されており、芸術都市と呼ばれている。また、カジノなども多数あり、娯楽都市とも呼ばれているらしい。
これらは門を出てから約半日程度かかる距離がある。
討伐隊とは言っても、まだあまり調査は進んでいなく、魔王の居場所さえ掴めていない。いや、陰大陸と呼ばれる大陸にいるのは分かっているらしいのだが、正確な位置が分からないのだ。
魔族も一体一体が手強く、聞き出そうにもその前に殺してしまうか殺されてしまう。仮に捉えることが出来ても、忠誠心が高く情報を引き出すのが難しい。
だから、魔王の場所が分からず、単に情報が足りないだけなのか、もしかしたら陰大陸を探すことが間違っているのか、それとも、何か条件があるのか。
それすらも分かっていない。
正直、それでよく魔王討伐なんて言えるな、と思う。
まあとにかく、そういった背景から討伐隊はいくつかのグループに分かれている。ひとまず『クラスE』の第一回遠征は一組で移動し、この世界に慣れることを主な目的と設定されているらしい。
彼らは引率係の亮介先輩に連れられて北に向かい、交易都市である第二地区を経由して旅に出る。
一度旅に出れば、異常自体が起きない限り次に帰還するのは早くても半年はかかる。だから、挨拶をしておきたかった。
「すいません」
「はい?」
「勇者のパーティって、今どこら辺を歩いてるか分かりますか?」
「あぁ、今は北へ向かってるよ。もう出発するらしい」
「なるほど、ありがとうございます」
頭を下げ、北へと急ぐ。あまりこんなことは考えたくないけど、全員が生きて帰ってこれる保障はどこにもない。
北門に近付くにつれ、歓声が大きくなってくる。
「はぁ、はぁ、」
北門前に着くと、人垣ができていた。キャーキャー言っている。凄い人気だな。
これを掻き分けるのはちょっと申し訳ない。まだ距離はあるし、門前に先回りしておこうかな。
「あ、カナタ様じゃないですか」
「リリさん?」
途中で誰かに声をかけられたので振り返ると、そこにはリリさんが立っていた。
彼女は冒険者ギルドの受付嬢というイメージが強かったから、立ち姿を見るのは新鮮な感じがする。いや、よく考えたら初めてだ。
って言うより、
「リリさん、僕より背が高いんですね」
「え?あ、そうみたいですね」
僕は別に、背が高いわけではない。175センチ程度だから、平均的な高さだ。
それを考えると、リリさんは女性の割には背が高いように思える。
「それにしても、もう依頼をこなしてしまったんですね。それも無傷で。流石です」
……何が流石なんだよ。
「もしかして、カナタ様も討伐隊の旅立ちを見に行くんですか?」
「はい。一応、友達なんで」
「ふふ、そうですか」
「でも、人混みが凄かったんで、先に北門まで行っておこうかなって思いまして」
「なるほど。なら、私もご一緒してもいいですか?」
「もちろんです」
雑談しながら北門へ向かう。
カウンターに座る彼女は色気の漂う美人さんだと思っていたけど、こうして並んで立つと、背の高いかっこいい系のお姉さんにも見える。
なんか良い香りもするし、緊張するな。
「カナタ様は元の世界で、どんな生活をしていたんですか?」
北門前に着いて討伐隊を待っていると、ふいにリリさんがそう聞いてきた。
「元の世界での生活?」
「はい」
「………」
リリさんはただの好奇心で聞いてるんだろうけどなぁ……。
僕、あんまり人に話すような人生過ごしてないんだよなぁ……。
「そんなこと聞いても、面白くないと思いますよ?」
「ダメ、ですか?」
……その目はせこいな。
「……軽蔑しません?」
「もちろん」
即答か。
「僕は……、あ」
僕が話し始めようとすると、ちょうど討伐隊がやってきた。それと共に人混みが迫ってくる。
「……また、あとで」
「そうですね」
お互いに苦笑して、ベストポジションへと移動する。こんな状況が会話はできないかもしれないけど、せめて一目でも見ておきたい。
「あれがカナタ様と同じ第五期の勇者様方ですね」
歩いてきたのは、ギラギラと輝く装備を身につけた玲達だった。なんだか様になっていて面白い。
「あ、おーい!奏多!」
玲が僕に気付いて声をかけてきた。周囲のギャラリーがなんだなんだと僕に注目する。
「やぁ、玲。一週間ぶり」
「ほんとだぜ!奏多、全然会いに来ないしさ!何してたんだよまったく!」
寄ってきた玲は、銀色に輝く鎧を身につけていた。なんか、微妙に似合っていない。
「はは、ごめんごめん。ちょっとのんびりしてたよ」
「ったく、相変わらずマイペースな奴だな。世界は変わってもお前は変わらねえってか」
世界が変わったからと言っても僕はそのままだしね。まぁ、みんなそうだけど。
「奏多君!」
「やあ、栞」
修道服のようなローブを着ている栞も、僕の方に来た。相変わらずの美人だ。
「奏多君はほんとに行かないの?」
「うん、行かないよ。僕としては、栞が討伐隊に参加したのが意外だったけど」
栞は大人しく系だったし、正直王城に残るかと思っていた。
「だって、私も帰りたいもん。なのに待ってるだけなんて、卑怯でしょ?」
「気にしなくていい!例え一人だろうと俺が魔王を倒してみせるから。だから木嶋さん、無理して同行しなくていいんだよ?」
どこから湧いて出たのか、いつの間にか快斗が僕達のそばに来て、胸を張ってそう言った。
「ううん、大丈夫。私は行くから」
「そうか、分かった。奏多、お前は残るんだろう?きっと魔王を倒してくるから、待っていてくれ」
今度は快斗は僕を見る。気持ちは嬉しい。
「ありがとう。でも、僕は帰らない」
「……は?何言ってるんだよ奏多」
「僕は帰らないよ、玲。もう決めてる。君達が魔王を倒して帰る手段を得たとしても、僕はあんな世界には帰らない」
「奏多、お前……」
「おーい、お前ら!そろそろ行くぞ!」
遠くから亮介先輩の声が聞こえた。見れば、他のメンバーは既に門で待っている。
「ほら、行ってきなよ」
「あ、ああ、そうだな」
「玲。またね」
「奏多……。そうだな、また会おうぜ」
「私も!」
「俺も必ず結果を出して帰ってくる」
「玲、栞、快斗、行ってらっしゃい」
こうして、盛大な歓声に包まれた第五期の勇者による討伐隊は旅に出た。
僕はただ黙って、その背中を見送った。
◆
「あ、勇者様ではないですか」
討伐隊が旅立ち、夜の王城には少し寂しさが漂う。
それでも変わらず働かなければならないメイドは、いつも通り回廊の窓を拭いていた。そこに、ある『勇者』が歩みよる。
「………」
「どうしました?あ、もしかして迷子ですか?このお城は本当に広いですからね。もう数年はいる私でも、時々構造を忘れちゃいますし」
それはどうかとも思うが、そのメイドは笑ってそう言った。
「……いえ、ちょっと、疼いちゃって」
「………?疼く?」
「ええ。その、欲求不満で仕方ないんです」
顔を俯かせるその『勇者』の表情は、垂れた前髪で隠れて見えない。
「欲求不満?」
「はい。要するに、気持ちいいことがしたいんです」
「気持ちいいこと、ですか?そ、それって……」
メイドは少し顔を赤くして頰に手を当てる。
「だから、メイドさんに手伝ってもらいたくて」
「わ、私がですか!?だ、ダメですよ!女の子同士だなんて!」
メイドは更に顔を赤くする。ダメだとは言っているが、満更ではないのかもしれない。
「ダメ、ですか?」
「そんな……でも、少しだけ……な、ら……?」
メイドはチラチラと『勇者』を見ながら答えようとし、途中で異変に気がついた。突如、体が軽くなったからだ。そして、見た。
自分の右腕がない。
「あ、ああ、ああああああああああ!!?」
絶叫が、静まり返っていた廊下に響き渡る。だが、何故か反響はしない。
「ハァッ、ハァッ、あぁ!良い!良いよその声!思わず濡れちゃったよぉ!!」
それを聞いた『勇者』は恍惚とした笑い声をあげる。
「ちょっとなら良いんだよねぇ!?なら、次は左腕っと!」
ヒャンと風を切る音が鳴る。と同時に、ポトリと音が聞こえた。
メイドがそちらを見ると、そこには見慣れた腕が落ちていた。
「ぎっ、ぃやぁぁぁぁぁぁ!!!」
「やばいやばい!君、良いねぇ!最高だよぉ!」
「ひっ、や、やめっ!」
「だーめぇ」
ごとり、どさり、と何かが倒れたような音が続いて響く。
メイドが最後に見たのは、離れた場所に倒れる自分の体だった。
「あーあ、イっちゃった。下着洗わないと」
『勇者』はその凄惨な現場をあとにする。
気持ち良さそうな、本当に気持ち良さそうな表情を浮かべながら。
そろそろ主人公が気持ち悪くなってくると思います。




