第7話 エレベーターホール(前編)
「――このエリア、上に行けないようになってる」
男が端末の画面を睨みながら呟いた。
システムルームを出る前、俺たちは念のため、階層の移動経路も確認していた。
「制限、ですか?」
「見ろ、ここ。地下から上階へのエレベーターが、全部ロックされてる。緊急時のプロトコルとかで」
画面に表示された施設の階層図には、地下から上への矢印すべてに、赤い×印がついていた。
「じゃあ、どうやって上に行けば……」
エマの声が不安げに揺れる。俺は画面の隅に表示された注記を、素早く目で追った。
『ロック解除には、各エリア認証装置にてIDカードの認証が必要です』
続く一文に目を落として、背筋が冷えた。
『注意:認証操作により、当該エリアの隔離状態も同時に解除されます』
「――これ、解除したら、化け物もついでに上に行けるようになる、ってことか」
俺の呟きに、男が舌打ちした。
「厄介だな。だが、他に方法もなさそうだ」
それきり誰も口を開かないまま、三人で認証装置を探して歩き出した。
廊下を進むうちに、空気が変わっていくのを感じた。
妙に生臭いにおいが、奥へ行くほど強くなっていく。
それと同時に、壁や床のところどころに、蛍光灯の明かりに反射して赤黒く見える染みが飛び散っていた。
嫌な予感がする。
角を曲がった先で、男が足を止めた。
「……なんだ、これ」
俺もエマも、続いてそこに視線を向け――言葉を失った。
白衣の切れ端から俺たちと同じプレイヤーらしき人間たちの、誰のものとも分からない、砕けた骨とばらばらの肉片があたり一面に広がっていた。
壁に飛び散った黒ずんだ飛沫、まだ乾き切っていない粘性のある血だまり、そこから何かを引きずったような跡が奥へと続いている。
目の前には、いくつもの人だったものの残骸が無造作に散らばり、まるで悪夢のような光景が広がっていた。
「うっ……」
エマが口元を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。俺も、込み上げてくるものを必死に飲み下した。知識として知っていたのと、実際にこの目で見るのとでは、まるで重みが違う。
「これ以上、進んで平気なのか……」
男の声も、明らかに強張っていた。
「……ここで足止めしてても、状況は変わらない」
俺はどうにか、それだけを絞り出した。皮肉も出てこないくらい、喉の奥が固まっていた。
残骸を避けながら進んだ先に、壁に埋め込まれた認証装置を見つけた。
カードリーダーらしき小さな端子が、鈍く光っている。
「あった……!」
エマの声に、束の間、緊張が緩んだ。
その油断を、見透かされていたのかもしれない。




