第5話 地下の管理システムルーム(前編)
「――システムルームがあるはずだ」
物置部屋を出てすぐ、俺はそう切り出した。
エマと男が、揃って怪訝な顔を向けてくる。
「システムルーム?」
「こういう研究施設なら、大抵は管理用の部屋がある。全体の状況を確認できる場所だ」
もっともらしく聞こえるように言ってはみたが、内心は冷や汗ものだった。
知っているからこそ言えることを、さも思いついたふりで口にするのは、思ったより神経を使う。
「詳しいな」
男が片眉を上げた。責めるような響きではなく、純粋な感心のようだった。
「前に似たような施設の話を、聞いたことがあっただけだ」
嘘ではない。読んだweb小説の中で見た、というだけの話だが。
ポケットから見取り図を取り出し、廊下を進むと、幸い化け物に出くわすこともなく、目的の部屋に辿り着いた。
分厚い金属扉には「関係者以外立入禁止」の札。中に入ると、壁一面に並んだ巨大なモニターが、施設内の各所を映し出していた。
「これ、全部……この施設の中、ですか?」
エマが、食い入るように画面を見つめている。廊下、居室、機材室らしき部屋――どの映像も静止画のように動きがない。
俺は視線を素早く走らせながら、目当てのものを探していた。頭の中に浮かんでいる、あの場面。忘れたくても忘れられない、物語の一節。
見つけた。
画面の一つに映っていたのは、巨大な培養槽がずらりと並んだ部屋だった。
中には、透明な液体に沈められた、無数の影。
「――なんだ、あれ」
男の声が低くなった。エマが小さく悲鳴を上げ、口元を押さえる。
「あの、化け物と同じ……」
培養槽の中身は、一体や二体ではなかった。
数え切れないほどの影が、ぎっしりと並んでいる。まるで、何かの瞬間を待っているかのように。
その中で、三つだけ、様子の違う槽があった。
液体が抜け落ち、扉が開いたまま、中身が空になっている。
(――もう、三体出てるのか)
俺は、それらしく驚いた声を出した。
「……嘘だろ」
声に、わざとらしさが滲んでいないか不安だったが、幸い二人とも、画面から目を離せずにいた。
その隙に、モニター脇の端末に手を伸ばし、起動させる。
ログイン画面には、パスコードの入力欄。
(――これも小説で読んだ通りのはずだ。たしか、このパターンだった)
記憶を辿りながら、一つずつ指を動かす。数字の羅列を打ち込むと、画面がわずかに間を置いてから切り替わった。
制限区分の表示が消え、隠されていた記録の一覧が現れる。
「透真さん?」
エマの声に、慌てて画面を隠すように身体をずらした。
「今、なにかされていました?」
「いや……ここに、なにか出ているみたいだ」
誤魔化すには、少し苦しい言い方だったかもしれない。
だが、二人はまだ培養槽の映像に気を取られていて、俺がどうやってこの画面を開いたのかまでは、気にする余裕がなさそうだった。
表示された文面に、目を走らせる。
知っているはずの内容。それでも、実際に文字として目の前に並ぶと、また違う重みで喉が締まった。
『――培養個体、拘束機構に異常値を検知。安全装置、培養期間一〇〇パーセントにて自動解除。以降、被験体の順次解放を確認』
『対応措置:汚染除去プロトコル発動。発動より二十四時間経過後、全区画を焼却処理』




