第46話 ここは違う世界⑥(sideエマ)
爆風に押し出されるようにして地面に転がりながら、私は炎に呑まれていく施設の姿を視界の端に捉えていた。
空を見上げたまま、しばらく動けなかった。
「……ありがとう、ございました」
震える声で、皆にそう言うのが精一杯で、涙が勝手に溢れて止まらなかった。
目覚めてからずっと張り詰めていた心が、ようやく緩んでいくのが分かる。
(生きている……私、本当に、生きている)
私はしばらく泣き続けた。
「……礼を言うのは、こっちの方だ」
もう一人の男の人が、いつになく真剣な声で話し始める。
「お前らがいなかったら、俺はとっくに死んでた。ここまで、世話になったな」
「まだ礼を言うのは早いんじゃないか。この後どうなるか、分からないだろ」
「そうだな。だが、一応――名乗っておこうと思ってな。今さらだがずっと名無しのままっていうのも、締まらないだろ」
彼は小さく笑った。
「篠崎だ。篠崎修一」
「鴉城透真だ」
「柊エマです」
私たちは顔を見合わせて笑った。ここまで一緒に生き延びてきた相手の名前が、ようやく胸に刻まれる。
その時だった。
突如、大音量でパンパカパーンと辺り一帯にファンファーレが鳴り響いた。
驚いて周りを見回したけれど、とくに異常はなく篠崎さんとあの黒い男の人は落ち着いている。
続けて、視界の端に半透明のウィンドウのようなものが浮かび上がった。
『――生き残った皆様、おめでとうございます。ミッションクリアを確認しました』
『ミッションF:バイオ研究施設からの脱出 クリア』
『功績に応じて報酬ポイントを付与します』
文字の下に、一覧が現れる。
『鴉城透真:初回クリアボーナス +300pt/特別功績ボーナス(囮行動)+150pt』
『凍黒玲:継続クリアボーナス +150pt/特別功績ボーナス(討伐貢献)+200pt』
『柊エマ:初回クリアボーナス +300pt』
『篠崎修一:継続クリアボーナス +150pt』
表示を見て、私はようやく黒い男の人のフルネームを知った。
「凍黒、さん……? そういう、お名前だったんですね」
篠崎さんも驚いた様子で彼を見ていたけど、凍黒さんは表示を一瞥しただけで特に反応を示さなかった。
「聞かれなかったので」
素っ気なくそう言うと、視線を透真さんの方に向ける。
二人の間に、何か通じ合うものがあるような、そんな一瞬の間があった。
(そういえばさっき、透真さんは名前を呼んでいた)
二人は初対面に見えたけど、元々知り合いだったのだろうか?
ミッション中は、ほかのことを考える余裕なんてなかったけれど。
透真さんと凍黒さん、二人には他の人にはない独特な雰囲気を感じる。
それが何なのかうまく説明できないけれど、この二人がいればこの先何が待ち受けていても大丈夫な気がした。
私は表示された自分のポイントを見つめる。
『所持ポイント:300pt』
これが、この世界での私のはじめの一歩だった。
そしてその後、私は一人で黄昏都市へ転送されることになる。




