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デスゲームの悪役になった俺の生存戦略  作者: ハチ


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第45話 ここは違う世界⑤(sideエマ)

 やがて私たちは、地上への唯一の出口に辿り着いた。


 巨大な両開きの扉。金属製の重厚な造りに、施設の紋章が刻まれている。


 だが、その手前で足が止まった。


 扉の前に、数人のプレイヤーの姿と二体の化け物。うち一体は一回りも大きく、それでいて人間と同じような姿をしていた。均整の取れた筋肉に人間に近い顔立ちが乗っかっていて、落ち窪んだ眼窩の奥に意志を感じさせる双眸が、静かにプレイヤーたちを見据えている。


「あれは……何ですか……?」


 声が震えた。人の姿に近いのに明らかに異形だと分かるのが不気味で、明確な殺意を宿してこちらを射抜く視線に、背筋がゾッと冷えた。


 誰も答えを知らなかった。


 その化け物は目の前の複数のプレイヤーをあっという間に肉片に変えたかと思うと、また静かに扉の前に佇んでいる。


 そんな恐ろしい化け物に、黒い男の人が一人で相手をすると言って歩き出した。


 迷いのかけらもないその背中が、一瞬、透真さんの背中と重なった。


(――止めなきゃ)


 そう思ったのに、声が出なかった。あんな化け物に、一人で立ち向かうなんて。それなのに、彼の足取りは、まるで散歩にでも行くように軽かった。


「――俺たちは、あっちを引きつける」


 透真さんがこちらに向き直る。もう一人の男の人は一瞬迷うような顔をしたが、すぐに頷いた。


「私、後ろで支援します。何かできることがあれば……!」


 声も体も震えていた。それでも、逃げ出そうとは思わなかった。皆がそれぞれ動く中で、自分にも何かできることはないかと必死だった。


 こうして、それぞれの戦いが始まった。


 私は震える手を握りしめながら、それでも視線を逸らせずにいた。


 最初のうちは拮抗しているように見えた戦いが、崩れたのは一瞬だった。


 人型の化け物の巨躯がミシミシと不気味な音を立てながら捻れて、より人間に近いシルエットに変わったと思ったら、次の瞬間には黒い男の人が吹き飛ばされていた。


 瓦礫の山に叩きつけられる鈍い音が、あたり一帯に響き渡った。


 私には何が起こったのか見えなかったけれど、化け物の背中に、さっきまではなかった触手のようなものが生えていて、それが彼を打ち据えたらしかった。


「玲!」


 透真さんが、吹き飛ばされた黒い男の人の名前を叫んだ。勝手に喉から飛び出したみたいな声だった。


(――玲、さん?)


 どうしてあの人の名前を知っているんだろう――こんな状況なのに、頭の片隅でそんなことを考えている自分に少し戸惑う。


 彼はすぐに体勢を立て直し、片膝をついたまま油断なく敵を見据えていた。額から、一筋の血が伝っている。


 透真さんはもう一人の男の人に何かを叫んで、次に私のところへ駆け寄ってきた。


「エマ、これで扉を開けろ! 開いたら、すぐに動けるようにしておいてくれ!」


 扉を開けるアクセスキーが、勢いよく私の手の中に押し込まれる。


「透真さん……!」


「頼んだぞ!」


 それだけ言い残し、透真さんは黒い男の人の元へと走り出した。


 私は震える手でカードを握りしめ、恐怖で足がもつれそうになるのを必死に堪えて、扉に向かって全力で走った。


 背後で何が起きているのかは、分からなかった。


 ただ、透真さんの叫び声と、別の化け物を引きつけている男の人の怒鳴り声、そして変貌した人型の化け物のゾッとするような濃密な気配だけが、断片的に届いてくる。


 カードを持つ手が、汗で滑る。


 息を切らしながら、扉の脇にある端末の前に辿り着いた。緊張と焦りで手が震えて、一度は翳し損ねる。すぐにやり直すと、赤いランプが緑に切り替わった。


「開いた……!」


 安堵する間もなく、振り返って皆の様子を窺う。


 透真さんが、人型の化け物の前で大きく手を振っているのが見えて、肺をギュッと締められたみたいに息が詰まる。


 あんな至近距離で、まるで自分から狙われに行くみたいに。


(――透真さん、何してるの、無茶だよ……!)


 叫びたかったのに、声が喉に張り付いて出てこなかった。


 鞭のような触手が透真さんに向かって何度も振るわれて、そのたびに透真さんが体すれすれでかわしている姿を、私はただ見ていることしかできなかった。


「玲ッ!!」


 透真さんの叫びに応えるように、黒い男の人が地を這うように低い姿勢で滑り込み、振り下ろされる腕を紙一重で潜り抜け、そのまま化け物の懐へと踏み込んでいった。


 振り上げられたナイフが鈍く光ったと思った瞬間、それが化け物の眼窩へと吸い込まれていく。


 化け物の絶叫が大音量で施設中に響き、私は思わず両手で耳を塞いだ。


 倒した――と思ったのも束の間、化け物は両目を潰されてもなお倒れず、なりふり構わず触手を振り回して暴れ始めた。


「今だ! 距離を取れ!」


 透真さんが黒い男の人の腕を引いて、暴れる化け物から離れていく。私は思わず叫んだ。


「透真さん! 開きました! 扉、開いています!」


 精一杯声を張り上げると、透真さんがこちらを見た。全力で走ってくる二人を、扉の前で待つ。


 別の化け物を引きつけていた男の人も、悪態をつきながらこちらへ駆けてくる。


 そして全員、無事にその扉を潜り抜けた。


 外の空気に触れた瞬間――背後で、施設全体を揺るがすほどの爆音が轟いた。


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