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デスゲームの悪役になった俺の生存戦略  作者: ハチ


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第44話 ここは違う世界④(sideエマ)

 役員用フロアで脱出に必要なIDカードを探すが、見つからない。

 いくつかの部屋をまわり、デスクや書類棚、応接用のソファとくまなく探すが、目当てのものは見つからなかった。


「ないな……」

「こっちも、見つからないです……」

 時間だけが、無情に過ぎていくようで焦りが胸の奥で膨らんでいく。

 透真さんもどこか焦っているような表情で探している。

 そうやってしばらくの間、皆で捜索していると、ここでもまたあの化け物が現れた。


 逃げ場のないこの場所で、先程のエレベーターホールで危険を顧みずに駆け出した背中を思い出して、無意識に透真さんの白衣の裾をギュッと強く掴む。

「後ろに……」

 男の人が短く言って、私たちを庇うように前に出た。

 でも、その足も明らかに震えている。

 化け物が、ゆっくりと距離を詰めてくる。

 廊下の先は行き止まりだった。

(――どうしよう。逃げ場が、ない)

 初めて、本当に駄目かもしれないと思った。

 恐怖で、指先の感覚がなくなっていく。


 その時、化け物の背後の暗がりの奥から、何の前触れもなく黒い影が動いたと思ったら、次の瞬間には化け物から血が吹き出して、ドサリと重い音を立てて倒れていた。

 何が何だか分からなくて、目の前で溢れ出していく異形な者の体液と、むせ返るような濃い血のにおいが目に焼きついて、只々恐ろしかった。

 やがて、暗がりから、その人が姿を現す。

 高い長身と艶のある黒い髪を後ろに流した、どこか作り物めいた整った顔立ちの男の人。

 見る人全員が振り返りそうな美形なのに、返り血をわずかに浴びた白い頬と、なにより感情を映さない無機質な赤い瞳を、私は恐ろしいと感じた。

 あまりに現実離れした光景に、時間が止まったような感覚さえあり誰も動けなかった。

 黒い男の人は私たちには一瞥もくれず、化け物の死骸の傍にしゃがみ込み何かを探すように、周囲を見回している。

 やがて、少し離れた場所に転がっていた小さなカードケースを拾い上げ、こちらに向き直った。

「――探し物は、これですか?」

 感情の起伏のない低音の声とともに、差し出された手には私たちが探していた光沢のあるIDカードがあった。


 誰も受け取ろうとしないかに見えたが、ふいにずっと掴んでいた白衣の裾を軽く引かれて、透真さんを見ると目があった。

 まさか、と思ったが彼はコクンと頷いてチラッと黒い男の人のほうを見る。

 戸惑いながらも、透真さんの目を見たら分かった。


(私に、あの怖い人からカードを受け取ってきてほしいの?)

 今まで見てきた透真さんなら私たちを庇って彼自身が動きそうなのに、なぜ? という疑問と、なんとなく私とあの黒い男の人を関わらせたい意図のようなものを微かに感じた。

 でも透真さんがそうしてほしいなら、私に断る選択肢はなく、コクと頷き返すと歩き出す。


 正直、緊張と恐怖で心臓がバクバクと鳴るくらい近づくのは怖かったが、恐る恐る手を伸ばしカードを受け取る。

 指先が触れそうになるほど近くで見た彼の顔はやはり整っていて、それでいてどこか近寄りがたい空気を纏っていた。

 一瞬目があったけれど、その底の見えない深い赤はこちらに一切の興味も示していないのが分かった。

「あ、ありがとう、ございます……」

 無事に必要なものを受け取って、安堵に息をつく。

 彼はもう廊下の先へ視線を移していて、あの赤い視線が自分から外れたことに少しホッとした。


 その後、黒い男の人も一員に加わって私たちは所長室で脱出の扉に必要な鍵を手に入れた。

 透真さんが鍵のある机の引き出しの場所を言い当てたときはドキッとしたけど、「――勘だ」という透真さんの顔が気まずそうで、問いただそうとは思わなかった。

 ふと、あの人がじっと透真さんを見ていることに気づく。

 感情の読めない赤い瞳が何を考えているのかは読み取れなかったけど、透真さんの「――どうかしたか?」という問いに視線を逸らして答えている。

 透真さんはとくに気にしていないように見えたけど、私は透真さんを見るあの人の目が違うものに見えて心配になった。


 部屋を出ようとした、その時。

 遠くどこからか、人の叫び声のようなものと、なにかを破壊するような音が微かに届いた。

 思わず皆の足が止まる。

 血の気が引いていくのが分かった。

「――急いだ方がいいですね」

 感情のこもらない、その低い声に妙に緊張しながら、私たちは先を急いだ。


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