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デスゲームの悪役になった俺の生存戦略  作者: ハチ


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第41話 ここは違う世界①(sideエマ)

 目を開けたときに、真っ先に感じたのは、床の冷たさだった。

 薄い白衣越しに伝わってくる冷やりとした感触に、私は慌てて身体を起こす。

 見慣れない天井と消毒液の匂い、蛍光灯の白い光——状況を理解するより先に、心臓がどくどくと嫌な音を立て始めた。


「ここ、どこ……?」


 最後に覚えているのは、確か、朝大学へ向かっていたことを覚えている。

(お父さんとお母さんに行ってきます、って言って家を出て……)

 それから先の記憶が、ぷつりと途切れていた。


 周りを見渡すと、同じような白衣を着た人たちが、次々と身体を起こしていくのが見えた。

 誰もが戸惑った顔で、辺りを見回している様子を見て、皆同じような状況なのだという事を理解する。

(私だけじゃないんだ)

 こんなに複数の人間が同じような状況になっているという事に、ますます不安は強くなった。


 考え込んでいると、近くで一人の男の人がゆっくりと身体を起こすのが見える。

 癖のある赤茶色の髪を無造作に縛って、整っているのに目つきが悪く、どこか刺々しい雰囲気を纏った人だった。

 けっして親しみを持てるようなタイプではないのに、その横顔から覗く深い琥珀色の瞳が、ひとりで冷静に状況を見極めようとしているようで、なぜか目が離せなくなる。

 私は怖くて、誰かに話しかけずにはいられなかった。


「あの、大丈夫ですか」

 そう声をかけると、彼は鋭い目つきでこちらに視線を寄越した。

「ああ、大丈夫。あんたは?」

 抑揚の少ない、それでいて不思議と落ち着いた声だった。

 こんな状況なのに、不思議とこの人だけは動じていないように見える。

「わ、わかりません……気づいたらここにいて」

 事実その通りなのだが、情けない答えに泣きたくなった。

 それでも、彼は呆れた様子も見せずに、ただ小さく頷く。


 そのとき、天井から流れてきたアナウンスに、辺りの空気が一気に張り詰めたものに変わった。

 施設。事故。避難。

 単語の意味を頭で組み立てようとした矢先——遠くから、何かを引きずるような重い足音が響いてくる。

 饐えたような臭いが漂ってきたと思ったら、廊下の角から巨大な何かが飛び出してきた。


 最初はそれが何か分からなかった。

 人にも見えたし、違う何かにも見える。

 あまりに大きくて異様に膨らんでいて、腕の先の長く鋭い鉤爪と顔に見える裂けた口元から覗くぎざぎざとした牙が恐ろしかった。

 肥大化した眼球がギョロギョロと獲物を探すようにあたりを見回して、一瞬、その目と目が合った気がして喉の奥から小さな悲鳴が漏れる。

 あまりの急な展開に、自分の顔も周りの人たちの顔からも、みるみる血の気が引いていく。


 悲鳴があがる。

 誰かが転び、誰かが逃げ惑い、辺りは一瞬でパニックに陥った。

 体が硬直して動けないでいると、次の瞬間、腕を強く引かれた。

 状況を理解する前に、彼に物陰のような所へ押し込まれる。

「動くな。声も出すな」

「で、でも――」

「大丈夫、俺が見てる」

 その一言に、少しだけ身体の震えが収まる。

 恐怖はまだそこにあるのに、彼がそう言った瞬間、なぜか大丈夫な気がしてしまったのだ。

 物陰から様子を窺うその横顔は、真剣そのもので、その唇は息さえ潜めるようにきつく結ばれている。

 逃げ遅れた誰かが化け物に追われる悲鳴が響いた瞬間、彼はハッとした顔をして、迷いなく飛び出していってしまった。


 助けに向かう後ろ姿を、私はただ見ていることしかできず、恐怖で何もできない自分が少しだけ悔しかった。


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