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デスゲームの悪役になった俺の生存戦略  作者: ハチ


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第36話 鐘楼の攻防(後編)

「……ぼんやりしてる暇があったら、次の矢をつがえろ」

 俺の口からこぼれたのは、心配とは程遠い素っ気ない言葉だった。

 だが陽太はそれで我に返ったのか、慌てて立ち上がり弓を構え直す。


 それを横目に見ながら俺は前方で戦う二人に声を掛けた。

「渡、レオ、宝が隠されてるのはあの鐘楼だ! 建物までの道を作ってくれ!」

 俺の指示に「道を作れったって結構距離あるぞ! それに目の前のコイツら相手で手一杯だっての!」と渡が幽霊を撃退しながら返事をする。

「陽太、後ろから援護を!」

 俺の指示に、陽太がボウガンを構え直す。

「了解です!」

 矢が唸りを上げて飛び、先頭の二人の前にいる幽霊の輪郭を貫いた。

 手応えのある音がして、白い影が霧のように散っていく。

 それを見た渡とレオが互いに一瞬目配せをして、札を取り出した。

「俺とレオがそれぞれ札を使う! 幽霊どもが散ったら一気に建物まで走るぞ! 遅れるなよ!」

 そう言うやいなや渡の持つ札が破かれて、あたり一面に光が溢れ周囲の幽霊たちがか細い悲鳴をあげながら霧散していく。


「行くぞ!」

 俺は声をあげて一気に走り出した。

 後ろにエマや陽太、玲がそれぞれ続き、皆で固まりながら鐘楼のある建物へと駆ける。

 しかし散っていた幽霊たちは次々とまた復活すると、すぐに俺たちに迫り始めた。

 少し遅れがちなエマと陽太に狙いを定めて四方から手を伸ばしてくる。

 それを見た俺の足が止まりかけた次の瞬間、玲の姿がその場から掻き消えた。

 気づけば、俺の視線は玲の姿だけを追っていた。

 だがその動きを目で追いきれたのは、白い影が次々と斬り裂かれていく残像だけだった。

 刃が空気を裂く音、幽霊が散っていく際の低いうめきのような音が連続して響く。

 数体分の敵が、ものの数秒で消え去っていた。

「……相変わらず、化け物みたいだな」

 物語のヒーローである玲の強さは、分かっていても見るたびに理不尽だと感じる。

 それが主人公だからなのか、あるいはまた別の理由があるのか。

 思わず漏れた呟きに、玲がわずかに口の端を上げたのが見えた。

 所々崩れ落ちた建物の、ドアが半分壊れた入り口から中にいたのであろう幽霊たちが溢れてくる。

 それを見たレオが手の中の札を破き、もう一度建物周辺の敵をかき消していく。

 幽霊が一掃されたその隙に俺たちは中へと駆け込んだ。


 中はホールになっていて、大きな窓がありそこから注がれる光で埃が舞っているのが見える。

 ほぼ全力疾走で走り続けたので、ゼエゼエと呼吸が苦しい。

 肩で荒い息をついた。

 だが背後の入り口からまた再生した幽霊たちが迫ってくるのが見える。

 休む暇なく、振り返りエマを見た。

「エマ、頼めるか」

 俺が声をかけると、エマも呼吸はまだ落ち着いていなかったが、その手にはすでにスクロールを握りしめていた。

「はい! 任せてください」

 短く頷き、エマが青いスクロールを開く。

 次の瞬間、スクロールの紙面から青い光が滲むように浮かび上がる。

 同時に周囲の空気が湿り気を帯び、どこからか、ぴちゃん、と水が落ちる音が響いてきた。

 光と音が大きくなるにつれて、薄い水のベールのようなものが空間に広がっていき、幽霊たちの足――正確には足のように見える輪郭――に絡みついていく。

 幽霊たちの動きが、目に見えて鈍った。

「今だ!」

 渡とレオがその隙を逃さず斬り込み、動きの鈍った幽霊を次々と霧散させていく。

 陽太の矢も、狙いを外さず的確に敵を捉えた。

 水の効果は長くは続かないだろう。

 だが、流れを変えるには十分だった。


「ここは俺たちが抑えておくから、とっととクリアの宝見つけてこい!」

 敵を斬りつけながら渡が声を上げると、その隣のレオも槍を突き出しながら頷いた。

 そんな二人をサポートするように矢を放ちながら「お願いします! 透真さん!」と陽太が叫んだ。

 エマは三人の後方で、淡く光を放つスクロールを手に持ちながらこちらを見た。

「透真さん、行ってください。凍黒さん、透真さんを守ってくださいね」

 俺と俺の近くにいた玲を見て、笑顔で言った。

 それぞれの声に背を押されて、奥歯をぐっと噛み締める。

 エマがスクロールを発動してくれているとはいえ、その効果もいつまで持つかは分からない。

 今すぐにでも動かなければいけないのに、足が重い。

 皆を置いていって大丈夫かという不安と、皆なら大丈夫だという信頼と。

 相反する気持ちを振り切って、俺は上へと続く階段へ走り出した。

「すぐクリアしてくる! 勝手に死ぬんじゃないぞ!」

 俺が叫んだ言葉に玲が一瞬目を見開いた。

 何か言いかけて、結局何も言わずに、そのまますぐ後ろに続く。

 咄嗟に出た言葉は俺自身の言葉なのか、それともいつも通りの皮肉の言葉なのか。

 判然としないまま、俺は鐘のある塔の最上階へ急いだ。

 上へと続く階段は、不気味なくらいに静かだった。


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