第34話 最後の宝の在処(後編)
「……静かだな」
思わず呟いた言葉に、玲が短く頷く。
「ええ。おかしいですね」
さっきまであれほど湧いていた幽霊が、今はどこにも見当たらなかった。
周囲を見渡しても、白くぼやけた人影ひとつない。
「敵の数、宝を見つけるたびに増えるはず、ですよね……?」
陽太が周囲を見渡しながら「なら、残り一個になった今が一番多いはずなのに」と誰にともなく聞いた。
俺はもちろんその理由を知っていた。
リストバンドの数字は『1』を示し、残りの宝はミッションクリアに必要な特別な宝だけだ。
そのため二枚目の地図を手に入れた時点で、この廃墟内の幽霊二十九体すべてが最後の宝の周辺に集まっているはずだ。
だがそれを説明する訳にもいかず、結果、皆が押し黙る形となった。
静けさは安心とは程遠く、むしろ、何かを待っているような、張り詰めた気配が肌に纏わりつくようだった。
(このまま鐘楼のある場所へ進んでも、今の戦力じゃ敵に数で呑まれるのが目に見えてる。
小説の中じゃたしか、生き残ってるプレイヤー全員で鐘楼を攻略したはずだが……)
正直この辺の記憶はあまりはっきりとしない。
ただ移動中に主人公たちは敵に遭遇しなかったという事と、他のプレイヤーたちと合流したという事だけ曖昧に覚えている。
(それでも、警戒するに越したことはないか)
俺は無意識に、鉄パイプを握る手に力を込めた。
しばらく瓦礫だらけの道を進んでいくと、前方に人影が見えた。
こちらに気づいたのか、その人影が足を止め、大きく手を振ってくる。
「おーい! そこの!」
プレイヤーであろう見知らぬ男が二人、こちらへ駆け寄ってきた。
一人は腰に剣を差し、もう一人は槍を肩に担いでいる。
俺たちは思わず身構えたが、二人に敵意はなさそうだった。
「おっと、安心してくれ。俺たちも普通にこのミッションに参加してる、あんた達とやり合うつもりはない」
剣の男が両手を軽く上げて見せ、戯けたように告げてくる。
「ちょっと話がしたくてさ。少し良いか」
玲が俺の隣で油断なく相手を見据え、エマと陽太も警戒するようにじっと男たちを見ていた。
「……何の話だ」
俺が代わりに聞くと、槍の男が手元のリストバンドの数字を指し示しながら口を開いた。
「残りの宝はもう例のクリアアイテムだけだろう? それ以外は全部見つかっている」
「だから、これからはもう敵の数が増える心配はない。その代わり、まわりは敵だらけだ」
剣の男が明るい声で言った。
「――だから、ミッションクリアのために協力しないか?」
その言葉に、俺は思わず息を呑んだ。
「正直、俺たちだけじゃ厳しい戦いになるのが分かっている」
槍の男が、真剣な顔で続けた。
「頼む、一緒に行かせてくれないか。少しでも人数がいた方がいい」
「戦力にはなるぜ。剣も槍も、それなりに扱えるしな」
剣の男が、腰の剣をとんと叩いてみせる。
「それに――」
懐から何かを取り出し、俺たちに見せた。
その手に握られているのは、複雑な文様が片面に描かれた古い札が、二枚。
「浄化用アイテムの札も二枚持ってる。いざとなったら、これで幽霊を追い払えるぜ」
男がニヤリと笑うのを見て、最後の二枚はこのプレイヤーたちが手に入れていたのかと目を瞬いた。
このミッションで得られる浄化アイテムは五枚あったはず、俺と玲と蝿のタトゥーの男が持っていたもので三枚、残りはこのプレイヤーたちが持っている二枚。
これから向かう場所にはたくさんの幽霊がいるはずなので、正直この二枚でも心許ないが、男たちは見るからに前衛なので贅沢は言っていられない。
俺は横目で玲を見た。
玲もこちらを見て、小さく頷く。
判断は任せる、という合図だった。
俺はもう一度二人のプレイヤーを見た。
「いいだろう、一緒に来るのを許してやる」
よろしく頼む、と告げるはずだった言葉は、いつのまにか皮肉なセリフにすり替わっていた。
初対面の相手に気まずさを覚え、思わず苦い顔になる。
そんな俺に二人の男は目を丸くした後、次いで明らかにほっとした顔を見せた。
「助かる、後悔はさせない」
「俺は渡、こっちはレオだ。よろしく頼むよ」
剣の男——渡が名乗り、俺たちも簡単に名前を交わす。
エマが少し緊張した面持ちで陽太の隣に寄るが、陽太は小声で「大丈夫だよ」というように囁いている。
五人だった俺たちのパーティは、こうして七人になった。
鐘楼はまだ遠くに見えている。
だが、そこに待っているものを思うと、足取りは自然と重くなった。
本日はお読みいただき、ありがとうございました。
ついにカクヨムでもPVが1000を突破しました!記念にデス生存のイラストを描いたのですが、なろうでは画像を載せられないため、よろしければカクヨムの近況ノートをご覧ください。
明日以降は、通常通り週3回(火・木・土)の更新に戻ります。




