第33話 最後の宝の在処(前編)
俺たちはしばらくエマが消えていった建物の入り口を見ていた。
心配はつきないが、このままここで、ただじっと待っている訳にもいかない。
「エマが宝を取って戻ってくるまで、俺たちは建物周辺で敵を引きつけよう。幽霊がこちらに向かってくれば、その分中にいるエマが動きやすくなるはずだ」
玲と陽太を見て声をかけると、それぞれが了承したというように頷いた。
動き出す前にもう一度入り口を見て、俺は心の中でエマへ頑張れと呟いた。
エマが中に入ってどれくらい時間が経っただろうか。
長いようにも感じるし、まだそれほど時間が経っていないようにも感じた。
それぞれが一〜二体の幽霊と戦いながら、俺はチラリと周りの様子を伺った。
玲は危なげなく敵を倒してるし、陽太は遠距離からの攻撃で今のところ大丈夫そうだが、敵が複数で来られると危ないのでなるべくこちらで引きつけておく。
建物に異常はなく、エマはまだ戻らない。
そのとき、建物の二階の奥、大きな窓のある部屋から光が溢れた。
(エマ?! 札を使ったのか?)
いざとなったら札を破くように言っておいたが、それが使われたということは、危険な状況なのか?
嫌な想像に冷たい汗が流れる。
物語の中では無事に、二枚目の地図を手に入れていたので大丈夫だと思ってエマ一人で行かせたが、それは間違いだっただろうか?
次々と湧いてくる疑問と不安に焦燥に駆られていると、しばらくして入り口の隙間からエマがじりじりと少しずつ出てくる姿が見えた。
「エマ!」
叫んだ声に反応するように、エマがこちらを見て、安心したように表情を崩す。
膝から崩れ落ちそうになったところを、陽太が横から支えた。
「エマさん、大丈夫!? どこか怪我したりとか」
「へ、平気。ちょっと、足が震えてるだけ……」
そう言いながらも、エマの腕には赤みがあり軽い火傷のような跡が見えた。
声はまだ上ずっていたが、その手には、しっかりと丸められた地図が握られていた。
無事に戻ってきてくれた安堵感と、怪我を負わせてしまった罪悪感に押し黙る。
俺は膝をついて、エマの目線に合わせた。
腕を手に取り怪我の具合を確かめる。
「腕、赤くなってる……あの光は、中で戦ったのか」
「宝を見つけた瞬間に、幽霊が現れて、でもちょっとひりつくだけで全然大丈夫ですよ」
エマが小さく息を吐いて、明るい顔で笑った。
「透真さんに預けてもらった札、使わせてもらいました。おかげで、なんとかなりました」
その一言で、さっき窓から溢れた光の正体を理解する。
同時に、喉の奥に張りついていた重いものが、ようやく少しほどけた。
「……無事ならいい」
素っ気なく返した声が、自分でも思ったより掠れていた。
玲が近づいてきて、エマの手元をのぞき込む。
「それが、二枚目の地図ですか」
「はい。ちゃんと手に入れてきました」
エマがくしゃくしゃになった地図を、大事そうに広げて見せた。
玲が懐から、あの蝿のタトゥーの男が落とした一枚目の地図を取り出す。
二枚を並べると、それぞれに描かれた線や印が、微妙にずれた位置を示している。
「それぞれの地図を上から重ねるんだ」
俺は二人から受け取った地図を、透かすように二枚を重ねる。
最初は輪郭がぼやけて見えていたが、少しずつ位置を合わせていくと、二枚の地図に描かれていた別々の点が、一つの点に重なった。
浮かび上がったのは、街の外れ、崩れかけた鐘楼の場所だった。
「……ここだ」
地図の隅に小さく描かれた鐘のマークを、俺は指でなぞる。
陽太が地図をのぞき込んで、あ、と声を上げた。
「あの、遠くに見えてた塔じゃないですか? 半分崩れてるやつ」
エマが頷く。
「特別な宝は、あそこにあるってことですね」
誰も答えなかったが、それが答えだった。
俺は地図から目を離し、遠くに見える崩れた鐘楼の輪郭を見上げる。
この廃墟の街で、ようやく最後の場所が見えた。




