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デスゲームの悪役になった俺の生存戦略  作者: ハチ


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第30話 名前(後編)

 殴られるのを覚悟して目を瞑り、奥歯をぐっと噛み締める。

 玲は、気に入らない人間は容赦なく排除するような性格だ。

 悪役キャラの俺が煽るような発言をして、タダで済むはずがない。

 こちらは怪我人だからせめて手加減してほしい、と思った次の瞬間、感じたのは肩の焼けるような痛みにかかる冷たい液体の感触だった。

「う! ぐっ……」

 激痛が走ったのは最初だけで、それも徐々に薄くなっていく。

 覚悟していた痛みではなかったが、口を閉じていたおかげで情けない悲鳴が出ることはなかった。


 そろりと目を開ける頃には肩の痛みはすっかり無くなっていた。

 空になったポーション瓶を捨てながら、玲はそっけなく「名前」と言った。

 突然の行動も言葉の意味も何が何だか分からなくて、「え?」とまた間抜けな声が出る。

「呼んでいただろ、最初のミッションで俺の名前を」

 拗ねているようにも聞こえる言い方だが、まさかあの玲にかぎってとか、やっぱりあのとき名前を呼んでいたのに気づいていたんじゃないかとか、あのときスルーしたくせに今さらここで蒸し返すのかとか、なんで急に言葉遣いが変わったんだ、ふだん被ってる猫はどうしたこいつ、とか。

 

 いろいろと言いたい事はあったけれど。


「玲」


 俺の口から出てきたのは、心の中でずっと呼んでいた名前ただ一言だった。


「ああ」

 玲の返事がさっきまで不機嫌な様子だったのに、今はなぜか穏やかに聞こえた。

 こちらを見つめてくる瞳も微かな優しさを含んでいて、鼓動が跳ねる。

 このままこの瞳を見つめ続けるのは危険な気がして、半ば無理矢理に視線を逸らした。


 むず痒いような、思わず叫びたくなるような、なんだか変な空気だった。

 落ち着かない気持ちを抱えて、俺はゆっくりと立ち上がる。

 玲も何事もなかったかのように立ち上がると、周囲を見渡した。


「動けるか」

「……ああ」

 さっきまでとは違う声のトーンに戻っていることに、内心ほっとする。

 それを悟られたくなくて、俺はさっさと瓦礫の隙間から外を窺った。

 辺りに白い影の気配はない。

 さっきの騒ぎで散った分、しばらくはこの辺りも静かなはずだ。


「エマたちを探すか」

「別に、どうでもいい」

 あまり関心のなさそうな言葉に、少しの怒りと『ヒロインが心配じゃないのか』という疑問を感じる。

 そんな微妙な顔の俺を見て、玲は短く息をつくと「あまり遠くへは行っていないはずだ」と言い直した。


 声を潜めながら、崩れた建物の間を縫うように進む。

 何度か物陰に隠れながら進んだ先、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「――透真さん!」

 物陰から飛び出してきたのはエマだった。

 その後ろから陽太も駆け寄ってくる。

 二人とも無事なようで、ほっと肩の力が抜けた。

「透真さん、大丈夫ですか!? 肩、酷い怪我だったのに……」

「あれくらいの怪我なんともない。それにこいつが治療したからな」

 玲が治療してくれたんだ、と言うはずだったセリフはそっけないものになったが、エマは気にした風もなく、玲に向き直り深く頭を下げた。

「ありがとうございます、凍黒さん」

「いえ、当然のことをしたまでです」

 玲の声色が、また元の敬語に戻っている。

 俺にだけ見せる素の顔と、エマたちに向ける表向きの態度。

 その切り替えの早さに、今更ながら不思議な気分になった。


 再び俺たちは今の状況について確認した。

 蝿のタトゥーの男が持っていた地図を玲が取り出すと、エマの顔が曇る。

 結局あの男が死んで、男の持っていた地図が自分たちの手に入ったことに思うところがあるのかもしれない。

「これはミッションクリアに必要な特別な宝の在処を示す地図だ。でもこれ一枚じゃ意味がない、もう一枚の地図が揃って完成する」

 俺の説明に皆が一斉にこちらを見てきた。

 玲はじっと見つめて、エマは戸惑ったような表情をして、陽太が皆が聞きたいことを代表するように恐る恐る聞いてくる。


「あの、透真さんは、どうしてそんな事を知ってるんですか……?」

 当然の疑問だった。

 俺だって切羽詰まってなければ、もう少しうまい言い訳を考えていたはずだ。

 ゲーム開始時には『30』あった宝の数を示すリストバンドの数字が、今は『2』を示している。

 宝が減るほど、それを守る敵が増える――このゲームの厄介な仕組み。

 つまりこのミッションの宝はほぼ発見され、残すところ特別な宝とそれを示す地図の二つだけ。

 それは同時に、今この廃墟には二十体以上の化け物がいて、それらがいつどこから飛び出してきてもおかしくない状況だ。


「……あの蝿のタトゥーの男が言っていた、宝の地図は二枚必要だと」

 だいぶ苦しい言い訳だ。

 言った俺ですら疑わしいと感じるのに、エマと陽太も揃って「え?」というような顔になる。

 次いでお互いに顔を見合わせて、そうだったっけ?と困惑した様子だった。

 そんな俺たちの様子を見ていた玲はため息をつきながら「そうかもしれませんね」と話した。

「あの男は情報を買ったと話していたでしょう。経験者がミッションの情報を事前に買って挑むのはよくある事です、うっかり宝の地図が二枚あることも口を滑らせたんでしょう」

 玲の説明に納得したのか、エマと陽太の表情が明るくなった。

 逆に俺は眉間に皺を寄せながら、俺を助けるような真似をした玲を見た。

 玲もこちらを見ていたが、その表情からはなにを考えているのか分からなかった。


「あの、それなら残りの地図がある宝の場所、分かるかもしれないです」

 エマが手を挙げて、全員を見回してそう言った。


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