第21話 増える脅威(前編)
俺とエマは先ほどの場所から離れて、陽太との合流を目指しつつ、宝探しを続ける。
鐘楼の上で見た複数の白い影、その増え方からして、急いで残りの宝を見つけたほうがいいかもしれない。
移動しつつ、エマに都市へ転送された後どうしていたのか尋ねる。
「私は商業エリアの近くに転送されたので、まずは食事をしたいと思ってしばらくお店を見てまわってたんです。そこでプレイヤーさんが出してる屋台というのを発見して、食事をしたらそのプレイヤーさんがいろいろ教えてくれました」
ニコニコと笑顔で話すエマだが、初心者の女性プレイヤーに親切にいろいろ教えるプレイヤーと聞いて俺は半眼になった。
「……大丈夫だったのか? それ。情報の代わりに法外にポイント取られたりとか、世の中親切な奴ばかりじゃないぞ。とくにこんなデスゲームの世界じゃな」
疑わしげに忠告する俺に苦笑を返しつつ、エマは「分かってますよ」と答えた。
「篠崎さんがポイントの扱いに注意しろって教えてくれたので、食事代しか払ってませんよ。それにその方は女性プレイヤーだったので、たぶん、同情していろいろアドバイスしてくれたんです」
困ったような顔でそれでも明るく話し続けるエマに、なんと返したらいいのか分からない。
今は笑い話のように話しているが、そのとき同じ女性プレイヤーが同情するほどに苦しかったのかもしれない。
「透真さんは、都市に転送されてから、ずっとお一人だったんですか?」
エマの問いに、俺は首を横に振った。
「いや。宿の相部屋で、一人の男と一緒に過ごしてた。陽太っていう、俺たちと同じで最初のミッションをクリアしたばかりの男だ」
「陽太さん……」
「柄の悪い奴らに絡まれてるところを助けてな。それから懐かれて、成り行きで一緒に行動してた。今回も同じミッションに参加してるが、まだ会えてないな」
「そうだったんですね」
エマの表情がふっと和らいだ。
同じ立場の仲間がもう一人いる、というだけで少し安心したのかもしれない。
「……エマ、都市で……凍黒には会わなかったのか……?」
会話がひと段落したところで、俺は一番気にかかっていたことをエマに尋ねた。
唐突な問いにエマは目を瞬かせる。
「凍黒さん、ですか? いいえ、あのミッションをクリアした後からは一度もお会いしてませんよ?」
まさか……とは思っていたが、ぐっと心臓が鷲掴みされたように一瞬息が詰まる。
黄昏都市で再会するはずの玲とエマは接触していなかった。
小説の物語の通りに物事が進むと思っていたのに、それが間違っているなら、俺は、いったいどうすれば――
黙り込んだ俺を、心配そうに見つめるエマがふいに、なにかを見つけたかのように「透真さん! あそこ!」と指を差し駆け出した。
エマの突然の行動に意識を引き戻され、その方向に視線を向けると、ゴミ箱の中からエマが空き瓶らしきものを拾い上げていた。
その中から淡く発光した石片が転がり出る。
「宝です! これは食料ですね」
喜ぶエマに近づきながら手元のリストバンドを見ると、数字は『23』から『22』へ変化する。
「よくこのゴミに埋もれた中から見つけられたな」
ゴミ箱の中は空き瓶だけでなく缶や布、潰れた箱と雑多に物が詰め込まれている。
俺が感心して言うと、エマは得意気な顔をして「私、目はいいほうなんですよ」と笑った。
その明るい表情を見て先ほどの動揺を意識的に切り替える。
玲のことは引っかかるが、今はミッションに集中することにしよう。
「今エマが宝を発見して、数字が『22』になった」
リストバンドの数字を示して見せると、エマも自分のバンドの数字を確認している。
「これ、なんだろうと思ってたんですけど、残りの宝の数だったんですね」
ジッと数字を見つめていたエマがなにか思い出したように顔を上げて俺を見た。
「そういえば、さっき噴水の水の中でも宝を見つけたんですけど、ちょっとよく分からなくて」
これなんですけど、とエマが手に取り出したのは青色の巻物らしきものだった。
「それは……」
序盤のゲームでは滅多に出ることのないアイテムに俺が声を出したその時。
「良いモノ持ってるなぁ、お嬢ちゃん」
軽い口笛とともに第三者の声がした。




