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デスゲームの悪役になった俺の生存戦略  作者: ハチ


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第19話 宝探し(前編)

新たなミッション開始となります。

 夕暮れの名残りが紫紺の色に溶けていく頃、都市は静かな夜へと沈んでいた。

 窓から見上げる空には――二つの月が浮かんでいる。

 ひとつは大きく、淡い琥珀色に輝く月。

 もうひとつは、その隣に寄り添うように青白い光を放つ月。

 大きな月の光が古い石造りの街を柔らかく照らす一方で、青い月はまるで夜空の奥に浮かぶ幻影のように、淡い銀青色の光を落としている。


 俺はベッドに横になりながら、今日一日起きた出来事を思い返していた。

 見知らぬ場所で目が覚めて、気づいたらどういう訳かweb小説の悪役キャラになっていた。

 物語の主人公たちと一緒に、最初のミッションをクリアした。

 最初から最後まで、まるで夢の中にいるような出来事だが、現実に自分は今ここに、この世界にいる。


 ミッションに生き残ることで精一杯で、ゆっくり考えている暇はなかったが、俺はどうして鴉城透真としてこのweb小説の世界にいるんだろう?

 鴉城は当初、序盤で退場する雑魚キャラに見えたが結局最後まで主人公たちに関わり続け、ミッションの邪魔をする定番の悪役だった。

 主人公たちがこの世界の秘密を知るために目的としていた、最後の幻のミッション。全プレイヤーを巻き込んだこの最終ミッションは、クリアすればこの世界の

すべて、運営の目的も分かるはずだった。

 たしかそのミッションのクリア報酬……そこまで考えてハッと気づく。


(そうだ! クリアしたらどんな願いでも叶うと言われていた報酬……!)


 ――それを手に入れることができたなら、俺は元の世界に戻れるんじゃないか?


 何をやればいいかも分からないし、どうすれば元の世界に戻れるかも分からない現状、この世界にいる限りデスゲームのミッションはクリアしていかなければならない。

 それなら、主人公たちについて行けば、願いの報酬で帰れるかもしれない。

 当面の目的を見つけて、体の奥底から深く息をついた。

 化け物との命懸けの戦闘や緊張の連続で、張り詰めていた心がやっと解けていくのを感じた。

 明日は、少しは落ち着いた一日を過ごせるだろうか。

 そうあれこれ考えこんでいると——ふと、窓の外に、こちらを見つめる気配を感じた。

 確認しようとした次の瞬間には、その気配はフッと消えていた。

 気のせいか。……いや、この都市に来たばかりの頃に感じた、あの視線と似ている気がする。

 スッキリしないまま、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。


 休息期間が終わる、という通知が来たのは三日目の朝だった。

 宿の硬いベッドの上で目を覚ますと、視界の端に半透明のウィンドウが浮かんでいる。


『休息期間終了まで残り六時間。以降、ミッション未受注のプレイヤーにはペナルティが発生します』


 文字を眺めながら、俺は小さく息を吐いた。

「透真さん、もう起きてます……?」

 隣のベッドから陽太の、寝起きにしては妙にはっきりした声が聞こえた。

 緊張しているのがわかる。

「今、起きた。お前も通知が出ているのか?」

「……はい。透真さんと……同じタイミングで、って思ってたんですけど……」

 断られるかもしれないと思っているらしい言葉を濁す陽太に、俺は苦笑いを返した。

 初心者は同じランクか近いランクのミッションしか受けられない、俺も陽太も条件は同じだ。それなら一緒に受けない理由もない。


 この世界に来た日に、状況を整理し、目的は決めた。

 目的が決まれば、あとは動くだけだ。

(ただ問題なのは、このweb小説が連載中で最後まで完結していないってことだな……)

 最後読んだ記憶では、幻のミッションの攻略半ばで止まっていたはずだ。

 いろいろ読者の間で考察はされていたが、結局俺はこの物語の結末を知らない。

 (それに……最初のミッションでも感じたことだが、どうも物語の記憶が中途半端に抜け落ちている部分があるのと、小説とは違う展開があった)

 眉根を寄せて研究施設でのミッションを思い返す。

 地下階から上へ上がるためのエレベーターホール、あそこで化け物と対面して、なんとか切り抜けられた。

 役員エリアでは先に進むためのIDカードの場所が把握できず、ここでも化け物と対面した。

 どちらも記憶が曖昧で、はっきりしなかった部分だ。

 もうひとつ特に気がかりなのが、巨躯の化け物との最後の戦闘――物語の展開にはなかった化け物の突然変異。

 本来ならあの場面は玲が変異前の巨躯の化け物を倒して、エマと一緒にミッションをクリアする流れだった。


 (熱心な読者という訳じゃなかったから、ミッションの細部まで覚えていないのは仕方ないが……またあんなイレギュラーがあったら、この先命がいくつあっても足りなくなる)


 一抹の不安はあるが、それでも今後の物語の展開やミッションを知っているのは大きなアドバンテージになるはずだ。

 どっちみち目的を叶えるためには、どんなに危険や不安があっても進んでいくしかない。

 そう決意を固めて、気合いを入れる。

 俺が次に受けるミッションはもう決まっていた。

 物語の中では、エマが次に参加するミッションのはずだ。

 玲の行方は分からないが、物語のヒロインがいるならヒーローもそう遠くない場所にいるはず、と俺は勝手にそう思い込んでいた。


 都市の中央に、ひときわ目立つ巨大な石造りの白亜の塔がある。

 運営が管理するその塔には、この世界のあらゆるミッションが集まっていた。

 今の俺のランクはF、このランクで受けられるF〜Eランクミッションがずらりと並んでいた。

 俺が探していたミッションは、すぐに見つかった。


【Eランク・廃墟の街の宝探し】

 舞台は、かつて栄えていたとされる廃墟の街。街のどこかに眠る「特別な宝」を、制限時間三日以内に発見せよ。参加人数:十二名、と記載されている。


 説明を読み終えた陽太が不思議そうに目を瞬いた。

「宝探し?」

 なんだか楽しそうですね、と隣の陽太の呑気な呟きを聞きながら、俺は内心で苦笑した。

 宝探しゲームなんて、まるで子供のお遊びのようなミッションだ。

 だが、ここはデスゲームの世界。額面通りに受け取ると、命がいくつあっても足りない。

「透真さん、このミッションを受けるんですか?」

 陽太はよっぽど安心したのか、さっきまで緊張で強張った顔をしていたのに今は明るい声で言い、笑顔さえ浮かべている。

「ああ、これにする。油断するなよ、どんなミッションでも甘くみたらすぐ死ぬぞ」

 そう自分にも言い聞かせて、俺は受注ボタンに触れた。

Eランクミッション引き続きお楽しみください。

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