第15話 芽吹 陽太(前編)
今回新キャラ登場になります。
視界が白く塗り潰されたかと思うと、次の瞬間にはまったく違う景色の中に立っていた。
目に映るのは空に浮かぶ、二つの月。無数に伸びるいくつもの尖塔、幾重にも重なる石造りの街並みに、ランタンの灯りが揺れている。
蔦の絡んだ石畳、行き交う無数の人影。物語の中に迷い込んだような、古めかしく見慣れない風景だった。
そして、そのすべてを見下ろすように――都市の中心には、一際高くそびえる白亜の塔があった。
塔の先端は、まだ沈みきらない夕陽を受けて黄金色に輝いている。
一瞬、状況も忘れて、俺は見入っていた。
(――ここが、あの黄昏都市か)
小説の中で初心者プレイヤーが、ミッションをクリアした後に最初に送られる都市だ。主に低ランクプレイヤーたちの拠点となっている。
燃えるような橙から深い紫へとその色を変えつつあるグラデーションの空の下、石畳の道には空の色と無数の灯りが溶け合っている。
小説の描写そのままに、まるで絵本の一場面のようなその景色に、しばらく見惚れていた。
ふと視線を下げると、いつの間にか白衣は消え、白いシャツの上に黒いコートを羽織った格好に変わっていた。
動きやすさを重視したような、飾り気のない服装だ。
こんなものまで、勝手に切り替わるのか。
「よし、行くか」
ずっとここにいる訳にもいかないので移動する。
周囲を見回しても、エマや篠崎、玲の姿はどこにもなかった。
玲や篠崎は経験者プレイヤーなのでここにいないことは分かってはいたが、エマとも別エリアへそれぞれ転送されたらしい。
いざ一人になると、妙な心細さが胸を過った。
胸元に視線を落とすと、半透明のウィンドウが浮かんでいる。
『――黄昏都市へようこそ、プレイヤー様。』
『所持ポイント:450pt』
『次のミッションまでの残り時間:3日00時間00分』
表示は、ふっと空気に溶けるように消えていった。
俺はひとまず、雑踏の中を歩き出した。
とりあえず宿を探すか、それとも先に情報を集めるべきか。
黄昏都市には初心者も多いが、同じくらい近いランクの経験者も集まっている。
この世界ではミッションで得たポイントが通貨の代わりとなっており、買い物をするにも宿に泊まるのもすべてポイントが必要になってくる。
それゆえプレイヤーの中には初心者を騙してポイントを奪う展開も小説の中ではよく描かれていた。
(変なのに絡まれないうちに、宿だけ確保しておくか)
頭の中で算段をつけていたそのとき、路地の奥から、揉め事らしい怒鳴り声が聞こえてきた。
「あ、あの!やっぱりポイント、返してください!」
覗き込むと、柄の悪い三人組の男たちが、ひとりの青年を取り囲んでいる。
その青年は、ひどく背が高い。だが、猫背のせいか実際よりずっと小さく臆病に見えた。
がっしりとした体格のはずなのに、縮こまった立ち姿がそれを台無しにしている。オリーブがかった色のくせ毛が、困り果てた顔にかかり、覗く瞳は柔らかい緑色をしていた。
「い、いきなり入会料とか情報料とか言われても、やっぱりおかしいです!」
「契約書、ちゃんと読んでねえのが悪いんだろうが!今更何をぐだぐだ言ってんだてめぇは!」
大柄な男の一人が、青年の胸ぐらを掴み上げる。
不意に、脱出直後の光景が脳裏をよぎった。
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クリア報酬発表の画面が光る中、「ポイント……?」とエマが呟いた。
その呟きを拾った篠崎がそれに答えるように、説明を始めた。
「ミッションをクリアした後は休息期間があって、その間は都市で過ごすことになる。どんな買い物するにも、ポイントが要るんだ」
「お金みたいなものなんですね」
エマは篠崎の話にうんうんと相槌をうちながら真剣に聞いている。
「ただ、都市じゃポイントの扱いには十分に注意しろよ。中には――」
篠崎が言い終える前に、その輪郭が光の粒子になってほどけていく。
何か言いかけた表情だけを残して、その姿は目の前で消えた。
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