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デスゲームの悪役になった俺の生存戦略  作者: ハチ


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第13話 クリア報酬(前編)

 化け物との距離を計算しながら、大きく回り込む。

 玲は、まだ膝をついたままだった。


「――何をしに来たんですか」


 俺が近づくと、玲はこちらを一瞥もせず低く言った。

 相変わらずその声には、どんな感情が含まれているのか分からなかった。


「加勢だ。あの化け物はやばい、一人じゃ分が悪いだろ」


 答えながら、玲の額の傷を見た。

 血はまだ流れているが、思ったより浅い。

 それに案外平気そうな顔をしている。ホッとした自分に、少し驚いた。


「――狙うのは、目だ」


 俺は変異した化け物を見据えながら言った。


「あの硬い体で、唯一柔らかい場所だ。他はどんなに切りつけても意味がない」


 化け物の弱点を告げると、玲が初めてこちらを見る。

 感情の読めない赤い瞳が、探るように俺を見つめた。


「――あなたは、なぜそれを知ってるんですか」


 もっともな疑問に一瞬息を呑む。

 どうしてか、玲のその言葉に試されているような気がした。


「見れば分かるだろ」


 短い沈黙の後、俺は誰かを真似て笑ってそう返した。


 振り向いて化け物の方に向き直る。

 心臓が痛いほどバクバクと鳴っている。


 通常の化け物とは違う、小説にはなかった変異した特別な個体。

 あの玲でさえ手間取る相手だ、俺にやれるだろうか?


 だが、ここで退いても他に生き残る選択肢がない。やるしかないんだ。


「俺が一瞬だけ時間を稼ぐから。その隙に、お前なら弱点を狙えるはずだ」


「――あなた正気ですか」


 緊張で心臓がうるさくて体も震えるのに、玲の返事がおかしくて一瞬フッと笑いがもれる。


「今更だろ」


 言い終えると、すぐに化け物へ向かって駆け出していた。


 より人間に近くなったフォルムに相手がこちらを注視したのが分かった。

 近づくほど、ビリビリとした威圧感を感じる。

 眼窩の中の瞳が強い敵意を持って全身に突き刺さった。


 今すぐにも殺されると感じる殺気に身がすくみそうになる。

 だが足を止めたら一瞬の間に終わりそうなので、意地でも全力で駆けた。

 恐怖はある。でも、それ以上に、あの玲なら。


 小説の中のヒーロー凍黒玲なら、化け物が俺を殺す前にやってくれる!


 化け物の視界に飛び込み、大きく手を振って注意を引いた。

 ぎょろりとした眼球が、獲物を捉えたように追ってくる。


 空気を裂く音とともに、鞭のような触手が横薙ぎに振るわれた。

 避けきれない、と思った瞬間、体を丸めるようにして地面すれすれまで身を沈めた。

 頭上を、触手の先端がかすめていく。

 風圧だけで、頬が切れたような痛みが走った。


 起き上がる暇もなく、二本目の触手が今度は下から突き上げてくる。

 横に転がるようにしてそれをかわしたが、着地の衝撃で息が詰まった。

 肺の中の空気が、一瞬すべて押し出されたような感覚。


(――まだだ、まだ、こっちを見てろ)


 立ち上がると同時に、俺は大声で叫びながら、大きく腕を振って位置を変えた。

 化け物の巨体が、緩慢に、だが確実にこちらへ向き直る。


 三本目の触手が伸びてきた瞬間、横に跳んで、紙一重でそれをかわしていた。

 着地と同時に、足首に鈍い痛みが走ったが構っている余裕はなかった。


「玲!」


 視界の端で、玲が地を蹴るのが見えた。


 一瞬の隙。それだけで、十分だった。


 化け物が触手を引き戻し、俺との距離を詰めようと巨体を傾けた、その刹那。


 玲の身体が、地を這うように低い姿勢で滑り込んだ。

 振り下ろされる腕を、紙一重で潜り抜ける。

 伸びかけた触手の一本を、体を捻ってかわしながら、玲はそのまま化け物の懐へと踏み込んでいった。


 距離はもう、ゼロに近かった。


 振り上げられたナイフが、狙い違わず、眼窩へと吸い込まれていくのが見えた。


 鈍い音とともに刃が眼球を貫き、そのまま脳天まで突き立てられる。


 瞬間、化け物の絶叫がビリビリとした大音量で施設中に響き渡った。


 だがそれでも化け物は死ななかった。

 両目を潰され、なりふり構わず触手を振り回し暴れ始め、腕を薙ぎ払い、手当たり次第に周囲一帯を破壊していく。


 その暴走の中に、男が引きつけていた離れた場所にいた化け物が巻き込まれた。

 一瞬の悲鳴とともに、その姿が引き裂かれ動かなくなる。


「今だ! 距離を取れ!」


 微かに息が乱れる玲の腕を引いて、俺たちは暴れる化け物から離れた。


「透真さん! 開きました! 扉、開いています!」


 背後でエマの声が響く。


 見当違いの方向へ暴れ続ける化け物を背に、扉へと向かって全力で走った。


 俺たちは、開かれた扉へと殺到した。

 男が先に飛び込み、続いてエマが、玲が、そして最後に俺が、その扉を潜り抜けた。


 外の空気に触れた瞬間――背後で、施設全体を揺るがすほどの爆音が轟く。

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