最終話 彼方と日常
――島が帰ってから、1か月が過ぎた。
長かったようにも、あっという間だったようにも思う。
その間も、世界は止まることなく動き続けていた。
当初は連日のように島のことを報じていたテレビも、幾分落ち着いてきた。
それでも時折、あの巨大な紋様や、大阪湾に浮かんでいた島の映像が流れることがある。m
そんな映像を見るたびに、本当にあったことなんだと、今でも不思議な気持ちになる。
高城知事は、今までと変わらず大阪府知事を続けている。
島が消えたあとも、しばらくは対応に追われていたらしい。
神谷さんは、隔離期間が終わると次の仕事で外国へ向かった。
別れ際、
「あー、面倒くさい」
と言っていたのが、なんとも神谷さんらしい。
どこへ行ったのか詳しくは聞いていない。
きっと今頃、またどこかで面倒な交渉をまとめているんだと思う。
藤堂総理は、今も総理大臣をしている。
本来なら辞意を表明するはずだった会見が、一転して辞意を撤回する会見となり、世間を騒がせた。
どうしてそんなことになったのか、私は知らない。
ただ、印象に残っていることがある。
これまで何度も藤堂総理や政府を厳しく批判してきた新聞社が、翌日の紙面で総理の辞意撤回を支持していたことだった。
それと、セオの事件に関係したアメリカの企業。
ニュースで見たところ、別の企業に買収され、旧経営陣は退陣したらしい。
事件についての捜査は、今も続いている。
世界では、今もいろいろなことが動いている。
そして、私、水城ひよりとリツは――。
「朝だよ、リツ。起きて、朝だよ」
「……」
「リツ、朝だってば」
「……」
私は少しだけ考え、ツクシノの言葉に切り替えた。
『リツ、朝だよ。起きて!』
「……ん」
布団が動いた。
しばらくして、リツがゆっくりと顔を出す。
「あ……おはよう」
「おはよう」
まだ眠そうな目で私を見たリツが、ふと眉を寄せた。
「ひよ姉、私、ツクシノ語、ダメ、言った」
「日本語で起こしたけど、リツが起きなかったの」
リツは「あっ」というように、僅かに目を見開いた。
「……ごめんなさい」
私は思わず笑った。
セオほど言葉を覚えるのは早くなかったが、それでも今では、片言ながら日本語で会話ができるようになっていた。
あの日、島は境界の向こうへ旅立った――
出会った記憶を、この世界に残して
そして、私たちの日常は続いていく
それはこれからも
はるか彼方まで――
完
ここまで『彼方と日常の境界、そのリアル』をお読みいただき、本当にありがとうございました。
大阪上空に巨大な紋様が現れるところから始まった、この物語。
彼方からやってきた島と、そこに関わる人々の物語を、最後まで見届けてくださった皆さまに、心から感謝いたします。
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本編はこれで終了ですが、次回、あとがきとおまけ話を投稿し、完結とさせていただきます。
もう少しだけ、お付き合いいただければ幸いです。




