↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】『彼方と日常の境界、そのリアル』 ―ある日、大阪上空に未知の紋様が現れたら、現実社会はどう動く?―  作者: そらと ソラ
彼方と日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/84

第七十八話 紋様、再び


2027年4月8日(木) 15:32


 ひよりとリツは、しばらく抱き合っていた。

 その様子を、カガリとナギは黙って見つめている。

 やがて、カガリが口を開いた。


『ひよりよ、これでリツのことは大丈夫じゃな』


 ひよりはリツから離れ、カガリへ向き直る。


『はい、任せてください』


 カガリは頷くと、今度はリツを見る。


『リツ、おぬしもそれでいいのじゃな』


『はい!』


 リツは迷うことなく答えた。


『では』


 カガリは一度、言葉を切る。

 先ほどまでとは違う、軍人としての表情でリツを見据えた。


『ツクシノ辺境方面軍、第三大隊、第三中隊、ヤシロ小隊所属、リツ』

『はい!』


 リツが姿勢を正す。


『おぬしに日本での継続調査の任を命ずる!』

『はい! リツ、拝命いたしました!』


 元気な声が部屋に響いた。

 カガリはしばらくリツを見つめる。

 そして、その表情を僅かに緩めた。


『良かったな……』

『ありがとうございます……』


 リツは深く頭を下げた。

 カガリはそんなリツから視線を外し、ひよりへ向き直る。


『ひよりよ、わらわ達は帰還の準備に入る』

『はい』

『次に日が出たくらいに、また転移門を開くための陣を展開する』


 ひよりは、その言葉に僅かに眉を動かした。


『それは、前に出た紋様がまた現れるということですか?』

『そうじゃ。門を開くのに、また同じくらい時間がかかるじゃろ』

『分かりました。そう伝えます』


 ひよりは頷いた。


    ◇


 島を出たひよりは、すぐに神谷へ電話をかけた。


「もしもし、神谷さん」

『水城さん。どうしました?』

「カガリ大隊長から、帰還について話がありました」

『帰還?』

「はい。明日の朝から、元の世界へ戻るための準備に入るそうです」

『……明日から』

「それと、もう1つ」


 ひよりは一度言葉を置いた。


「以前、大阪上空に現れた紋様を覚えていますよね」

『もちろんです』

「準備に入ることで、あの紋様が、また現れるそうです」

『……え?』

「転移門を開くための陣だと言っていました」


 電話の向こうから返事がなくなる。


「神谷さん?」

『……すみません。続けてください』

「門を開くまでには、前回と同じくらいの時間がかかるそうです」

『ということは、また7日ですか?』

「おそらく、そうだと思います」

『分かりました……』


 神谷の声が僅かに低くなる。


『すぐ官邸へ報告します』

「お願いします」


 通話が切れた。

 神谷は携帯電話を握ったまま、しばらく動かなかった。

 あの紋様が、再び現れる。

 神谷はすぐに官邸へ連絡を入れた。


    ◇


 東京、総理官邸。

 神谷からの報告を受けた藤堂は、静かに頷いた。


「……分かりました」

『はい。島側からの説明では、元の世界へ戻るための転移門を開く陣だそうです』


 浅間が尋ねる。


「出現するのは?」

『明日の午前と』

「前回と同じものなんですか?」

『水城さんからの報告では、カガリ大隊長はそう説明しています』

「……ということは」


 浅間が藤堂を見る。


「また、あのカウントが始まるということですね」

『そうです』


 藤堂は僅かに考えた。


「分かりました。神谷くんは大阪へ戻って、島側とのやり取りをお願いします」

『はい』

「こちらは国民へ知らせます」


    ◇


 大阪市内。

 駅前の大型ビジョンに、速報の文字が表示された。


『政府は先ほど、明日の午前、大阪湾上空に再び巨大な紋様が現れると発表しました』


 画面には、3月10日に撮影された大阪上空の映像が映し出される。

 巨大な円。

 約1か月前、日本中を混乱させた紋様だった。


『政府によりますと、この紋様は島の帰還に伴い、再度現れるということです』

『また、国民には冷静な対応を呼びかけています』


 足を止めて画面を見ていた人々から、声が上がる。


「また出るのか……」

「でも、今度は何なのか分かってるんでしょ?」

「島、帰っちゃうんだな」

「結局、1か月くらいしかいなかったんだ」

「明日の朝、見えるかな」

「見に行く人、絶対いるだろ」

「いや、大阪湾まで行くのはやめとけって。また何が起きるか分からんぞ」


 少し離れたところでは、制服姿の高校生たちが画面を見上げていた。


「学校から見えるかな?」

「屋上、開けてくれないかな」

「無理でしょ」

「でも見たいよね。もう二度と見られないかもしれないし」


 その言葉に、隣にいた生徒が画面を見上げる。


「……本当に帰るんだな」


    ◇


 ネット上でも、政府の発表は瞬く間に広がっていった。


『またあれ出るの!?』

『今度は意味分かってるからちょっと安心』

『あのカウントまた始まるのか』

『0になったら島が帰るってこと?』

『見たい』

『大阪に人集まりそう』

『危ないから行くなよ』

『来た時は怖かったけど、帰るって聞くとなんか寂しいな』

『もうちょっといてほしかった』

『異世界人、本当に帰っちゃうのか』

『あの女の子たちも帰るの?』


 約1か月前。

 誰もが、不安と戸惑いを抱えて見上げた紋様。

 そして今――。

 同じ紋様が、もう一度大阪の空に現れようとしていた。


    ◇


2027年4月9日(金) 07:40


 大阪。

 今朝の人々は、時折空を見上げながら動き始めていた。

 駅へ向かう人。

 車を走らせる人。

 店を開ける人。

 誰もが空の見える場所へ出ると、一度は上を向いた。


 あの日とは違う。

 今日は、何が現れるのかを知っている。

 そして――。


07:43


 大阪の空に、突然それは現れた。

 巨大な円。

 その内側に並ぶ、見覚えのある紋様。

 あの日と、同じ時刻。


「出た……」


 誰かが呟いた。

 駅へ向かっていた人々が足を止める。

 ビルの窓際では、何人もの社員が空を見上げていた。

 信号待ちの車からも、人々がその姿を見ている。


 あの日と同じ光景。

 だが――。

 もう誰も、


「何だ、あれ」


 とは言わなかった。


    ◇


 その日の午後。

 政府は、再び現れた紋様を解析した結果を発表した。

 カウントが0になるのは――。


2027年4月16日(金) 12時59分40秒。


 あの日と、同じ時刻。

 その時、島は元の世界へ帰還する――。

残り3話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。