第七話 官邸
2027年3月10日(水) 08:22
官邸危機管理センター。
大型モニターには大阪上空の映像が映し出されていた。
各所から集まる情報が端末へ次々と表示され、職員たちは慌ただしく画面と向き合っている。
室内に響くのは、短い報告とキーボードを打つ音だけだった。
藤堂はモニターへ視線を向けたまま、内閣危機管理監へ尋ねる。
「新しい情報は。」
「現象に大きな変化は確認されていません。」
「人的、物的被害も確認されていません。」
「関西各空港は離着陸を停止しています。」
藤堂は小さくうなずいた。
そこへ秘書官が足早に近づく。
「総理。大阪府の高城知事からお電話です。」
「つないでください。」
受話器を受け取る。
「藤堂です。」
『高城です。』
『現在、大阪上空で発生している事象について、ご報告があります。』
「……構いません。」
「状況をお願いします。」
高城は確認できている事実だけを簡潔に伝えた。
現象が確認された時刻。
人的、物的被害は確認されていないこと。
各空港が離着陸を停止していること。
大阪府として定点観測を開始したこと。
市立、府立学校の臨時休校に向けた対応が進められていること。
「府内の混乱は。」
『問い合わせが相次いでおりますが、現時点で大きな混乱は確認されておりません。』
「現象に変化は。」
『現時点では確認されておりません。』
短い沈黙。
高城が静かに続ける。
『大阪府として可能な対応は開始しています。』
『今後の対応について、国と足並みをそろえたいと考えています。』
『国としての方針をお聞かせください。』
藤堂は受話器を握ったまま、しばらく考えた。
「……分かりました。政府としても、直ちに情報を一元的に集約する体制を整えます。」
「大阪府は、現在の観測と情報収集を継続してください。」
「新たな情報は、政府からも速やかに共有します。」
短い沈黙。
『……承知しました。』
『大阪府としても、引き続き情報収集に努めます。』
「よろしくお願いします。」
『失礼いたします。』
電話が切れる。
藤堂は静かに受話器を置いた。
官房長官と内閣危機管理監が藤堂へ視線を向ける。
「現時点で対応要領は。」
内閣危機管理監が答える。
「現在の事象に直接適用できる対応要領は確認できておりません。」
官房長官が静かに口を開く。
「情報を一元的に集約する体制が必要です。」
室内が静まり返る。
藤堂は大型モニターに映る大阪上空を見つめる。
短い沈黙。
「官邸対策室を設置します。」




