第六話 初動判断
2027年3月10日(水) 08:05
知事は机上の資料へ、もう一度視線を落とした。
現時点で分かっていることは限られている。
だが、何もしないわけにはいかない。
「府としても観測を始めましょう。」
「府庁屋上へ定点観測用のカメラを設置してください。同じ画角で継続して記録を。」
「お天気カメラ映像は、出現前後を含めて保存してください。」
「阿倍野ハルカスの管理者へも協力を依頼してください。」
「円の中心直下が阿倍野付近と推定される以上、直下に近い場所からの映像も記録します。」
「お願いします。」
危機管理監がうなずく。
「承知しました。」
危機管理監はすぐに職員たちへ指示を振り分ける。
「定点観測用のカメラを屋上へ。ハルカスへの協力依頼と、既存映像の保存も進めてください。」
「はい。」
職員たちが一斉に動き始めた。
端末へ向かう者、内線電話を取る者、庁内の撮影機材を確保するため部屋を飛び出す者。
静かだった危機管理室が、再び慌ただしく動き始める。
そのとき、職員の1人が声を上げた。
「大阪市から連絡です。」
危機管理監が振り返る。
「大阪市教育委員会は、市立学校を臨時休校とする方針を決定しました。登校済みの児童・生徒については、校内で待機させるとのことです。」
知事がすぐに答える。
「府立学校も休校とします。府教育委員会と直ちに調整してください。」
「承知しました。」
職員が端末へ向き直る。
副知事が知事へ視線を向けた。
「災害対策本部は、設置しますか。」
知事は危機管理監を見る。
「設置要件は。」
「現時点で人的、物的被害は確認されていません。災害対策本部の設置要件に該当するか、判断できない状況です。」
知事はわずかに考えた。
「分かりました。現行の危機管理体制を維持してください。」
「承知しました。」
知事は机上に置かれた電話へ視線を移す。
「……」
「官邸につないでください。」
職員が直通回線を操作する。
短い沈黙。
『……官邸です。』
「大阪府知事の高城です。」
一拍置く。
「総理をお願いします。」




