第五話 現状把握
2027年3月10日(水) 08:00
「知事!」
危機管理室から出迎えに来た危機管理監が、声を掛けた。
その隣には、副知事の姿もある。
知事は小さくうなずき、歩みを緩めることなく二人のもとへ向かう。
そこへ、待ち構えていた記者たちが一斉に駆け寄った。
「知事!」
「上空の現象についてコメントをお願いします!」
「府としての対応は!」
矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
知事は足を止めない。
「現在、状況を確認しています。」
それだけ答えると、三人は足早に正面玄関を抜けた。
◇
危機管理室。
扉が開く。
室内にいた職員たちが一斉に顔を上げた。
「そのまま続けてください。」
職員たちは再び、それぞれの作業へ戻る。
危機管理監が知事を室内中央の机へ案内した。
副知事もその隣に立つ。
知事は椅子には座らない。
「現在確認できている事実だけを。」
危機管理監が資料を開く。
「現時点で最も早い映像は、午前7時43分頃のものです。府内のお天気カメラに記録されていました。」
「現時点では、円の中心直下は阿倍野付近とみられます。大阪市のほぼ全域を覆い、堺市、八尾市、東大阪市の上空にもかかっています。」
「根拠は。」
「複数地点からの目視情報を照合した結果です。正確な位置は確認中です。」
「現象は現在も同じ位置に留まっています。」
「現時点で、落下物など地上への直接的な影響は確認されていません。」
「府警、消防、航空関係機関とは直通回線で情報を共有しています。」
知事は静かにうなずく。
「何か被害は。」
「現在のところ、人的被害の報告はありません。」
「府内の状況は。」
「問い合わせが相次いでいますが、現時点で大きな混乱は確認されていません。」
「交通機関は。」
「鉄道各社は現在もダイヤどおり運行しています。」
「一方で、関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港の3空港では離着陸を停止しています。」
室内が静まり返る。
知事は机上の資料へ視線を落とした。
分かっていることは、まだあまりにも少ない。
危険なのか。
安全なのか。
なぜ現れたのか。
判断するには、材料が足りない。
知事はゆっくりと顔を上げた。
「分かりました。」
一拍置き、危機管理監へ視線を向ける。
「新しい情報が入り次第、直ちに報告してください。」
「承知しました。」




