第六十九話 会談準備
2027年4月1日(木) 08:12
大阪府庁、危機管理室。
「会談場所の設営状況は?」
「まだです。昨夜から作業を続けています」
「警察との調整は?」
「そちらも進めています。武器の保管場所については、府警と協議中です」
「警備計画は?」
「作成中です」
「報道対応は?」
「まだ何も決まっていません!」
「……」
高城は机の上に積まれた資料を見る。
昨日、官邸から連絡が入った。
4月3日の昼、島側の代表者が日本側へ上陸する。
島側の女性の遺体の引き渡しと、日本政府との会談を行う。
残された時間は、3日もなかった。
「急ですね……」
職員の1人が呟く。
「仕方ないでしょう。向こうはこちらの都合で動いているわけではありません」
高城は資料を手に取った。
「とにかく、3日までに間に合わせます」
◇
2027年4月1日(木) 09:06
東京、新聞社。
編集部の中を、慌ただしく記者たちが行き交っていた。
「大阪で動きがあるぞ!」
その声に、何人かが一斉に顔を上げる。
「3日、総理が大阪に入る。島側の代表との会談が行われるらしい」
「島側の代表?」
「ああ。まだ正式発表前だ。政府筋からの情報だ」
相沢も席から立ち上がった。
「島の人間が、日本側に来るんですか?」
「そこまでは分からん。だが、総理が直接会う」
編集部の空気が一気に変わった。
「場所は?」
「大阪。それ以上はまだ分からん」
「他社は?」
「動いてる」
短い答えだった。
デスクが相沢を見る。
「相沢」
「はい!」
「大阪へ行け」
一瞬、相沢の動きが止まった。
「……俺が、ですか?」
「行きたかったんだろ?」
「はい!」
「だったら急げ。今日中に入れ」
「はい!」
相沢は机の上の鞄を掴んだ。
◇
2027年4月1日(木) 14:48
大阪市内、マンション。
テレビには、官房長官の記者会見が映っていた。
『政府は、3日、島側の代表者と会談を行うこととなりました』
画面の下には、大きく速報の文字が流れている。
『会談には藤堂総理大臣が出席する予定です』
ソファに座ってテレビを見ていた女性が、隣の男性を見る。
「お父さん、島の人が来るんだって」
「とんでもないのが出てきたらどうするよ」
男性が笑う。
「前に藤堂さんが人間だって言ってたよ」
「そうだったか?」
「そうだよ」
女性は再びテレビを見る。
画面の中では、記者たちが一斉に手を挙げていた。
『島側の代表者について、政府はどこまで把握しているのでしょうか?』
『現時点で詳細についてはお答えを控えます』
『会談場所は大阪ですか?』
『大阪ですが、安全上の理由から、詳細な場所については公表いたしません』
男性もテレビへ視線を戻す。
「……本当に会うんだな」
「うん」
◇
2027年4月1日(木) 14:51
大阪市内。
数人の若者が、1台のスマートフォンを覗き込んでいた。
「マジで島の人、来るらしいぞ」
「大阪に?」
「3日だって」
「どんな人なんだろ」
「普通に人間らしいよ」
「女の子来ないかな」
「お前、そればっかじゃん」
「だって、めっちゃ可愛かったらどうするよ」
「異世界人だぞ」
「だからいいんじゃん!」
笑い声が上がる。
「私はイケメンがいい」
「刀持ったイケメンとか?」
「それ最高!」
「いや、刀持ってるか分かんねぇだろ」
また笑い声が上がった。
スマートフォンの画面には、海に浮かぶ島の映像が流れていた。
◇
2027年4月1日(木) 17:26
総理官邸、対策室。
「総理、神谷から連絡です」
藤堂が顔を上げる。
「島側から、武器の一時保管について了承が取れたそうです」
「分かりました」




