第六十八話 3日
2027年3月31日(水) 14:03
総理官邸、対策室。
神谷からの報告を受け、関係省庁の担当者が集められていた。
島側が指定したのは、3回太陽が昇った日の昼。
日本側に残された時間は、3日しかない。
「3日しかありません。すぐに取り掛かりましょう」
藤堂の言葉に、室内の空気が引き締まる。
「総理、上陸にあたって旅券の問題があります」
法務担当が声を上げる。
「どうなりますか?」
「通常の上陸手続きでは、外国人本人が有効な旅券を所持し、上陸の申請を行う必要があります。査証についても問題になります。入管法第6条、第7条に基づく通常の手続きは、今回ほぼ使えません」
「他に方法は?」
「法務大臣による上陸特別許可があります。上陸条件を満たしていない場合でも、特別に上陸を許可すべき事情があると認められれば、上陸を許可することができます」
「それなら、それを使えばいいのでは?」
「問題があります」
「何でしょう?」
「上陸特別許可は、政府が事前に招待者の名簿を作成し、それだけで許可する制度ではありません。通常の上陸審査から口頭審理、異議の申出などを経て、最終的に法務大臣が裁決する仕組みです」
「……彼らに、その手続きをさせるのですか?」
「現行制度をそのまま適用するのであれば、そうなります」
「それはできませんね」
「はい」
「他には?」
「旅券を必要としない一時庇護のための上陸許可もあります。しかし、これは難民などを緊急に保護するための制度です。原則として本人からの申請も必要になります。今回の目的とは明らかに異なります」
「ほかの上陸許可は?」
「寄港地上陸、通過上陸、乗員上陸、緊急上陸、遭難上陸などがあります。しかし、いずれも乗り継ぎや乗員の休養、治療、遭難者の救護など、それぞれ目的が定められています」
「今回には使えない?」
「難しいかと」
「……つまり」
藤堂は机の上の資料を見る。
「今の法律には、今回の事態をそのまま想定した制度がない」
「はい」
藤堂は少し考える。
「分かりました。では、彼らに手続きをさせるのではなく、日本側だけで完結できる方法を考えてください」
「3日で、ですか?」
「3日しかありませんから」
「……分かりました」
別の法務担当が資料に目を落とす。
「もう一点、武器についてです」
「刀ですね」
「はい。島側の方々が帯刀したまま上陸する可能性があります」
「銃刀法ですか」
「はい、そうです。刀剣類は原則として所持が禁止されています。許可なく帯刀したまま上陸させるわけにはいきません」
「……」
「日本へ上陸している間だけ、こちらで預かることで対応できませんか?」
担当者が考え込む。
「上陸時に提出してもらい、上陸地を管轄する警察署長が仮領置する形であれば対応できます」
「島側に書類を書いてもらう必要は?」
「必要な記録はこちらで作成します」
「では神谷くんへ、武器を携帯したまま会談することは難しいと説明して、上陸時に預けてもらえるか確認してください」
「分かりました」
「会談を行う会場はどうしますか?」
「5kmほどの距離に大阪府の咲洲庁舎があります。そこの会議室なら」
「総理、少しよろしいでしょうか」
厚労省担当が声を上げた。
「何でしょう?」
「検疫上の問題があります」
「検疫?」
「はい。彼らが我々と同じ人間に見えるとしても、未知の環境から来たことに変わりありません」
「……感染症ですか」
「それだけではありません。未知の細菌やウイルス、寄生虫などを保有している可能性を否定できません」
「なるほど……」
「逆もあります。我々には無害な病原体が、彼らにとって危険である可能性もあります」
藤堂はしばらく考える。
「では、一般の人が利用する建物に入っていただくのは避けた方がいい?」
「現段階では、その方がよろしいかと」
「分かりました」
藤堂は机の上の資料に目を落とす。
「これまで接触に使っていた港湾区域内で、会談できる場所を用意する方向で行きましょう」
担当者たちが頷く。
「大阪府と協力をお願いします」
「分かりました」
藤堂は次の資料へ目を移した。
「それと、セオ氏の遺体についてです」
室内の空気がわずかに変わる。
「神谷くんからは、たくさんの花で送ってほしいと聞いています。私はその希望に応えたいと考えます」
「それでは、斎場を用意しますか?」
対策室担当が尋ねる。
「いえ」
浅間が口を開く。
「相手の文化が分からない以上、日本式に寄せるべきではないと思います」
「私もそう思います」
藤堂は少し考える。
「……棺と、その周りにもたくさんの花を用意して、引き渡しを行いましょう」
藤堂は続ける。
「それだとリツ氏の希望に応えることができます」
「それがよろしいかと」
浅間が言葉を添える。
「分かりました」
藤堂は集まった担当者たちを見渡した。
「それでは、お願いします!」




