第六十七話 送る日
2027年3月30日(火) 17:10
神谷たちを乗せた船が、島を離れていく。
神谷は甲板から一度だけ島を振り返った。
そして携帯電話を取り出し、電話をかけた。
「総理、すみません。取り急ぎお伝えしたいことがあります」
『お聞きします』
「島には、軍事施設がありました」
『どういうことですか?』
神谷は、リツとヤシロから聞いたことを藤堂へ報告した。
藤堂は押し黙る。
『……分かりました。引き続き情報収集をお願いします』
「はい」
「それと、もう一点あります」
『何でしょう』
「セオさんの遺体を返還する際、日本側の代表と先方の指揮官との会談を打診しました」
『分かりました。こちらは先方の都合に合わせます』
◇
2027年3月30日(火) 17:38
ヤシロは、扉の前に立っていた。
『副大隊長、報告が』
『どうぞ』
扉の向こうから、男の声が返ってくる。
ヤシロは取っ手に手をかけ、扉を開けた。
『失礼します』
室内は簡素だった。
中央には大きな机が置かれ、その向こうに男が1人座っている。
開け放たれた窓から午後の日差しが差し込み、逆光でその顔まではよく見えない。
『用件は?』
『外の人間と話をしました』
『それで、どうでした?』
『セオの死については、リツの報告どおりかと。敵対心は低いと感じました』
『そうですか……』
『あと、セオの遺体を返したいと言ってまして』
『……確かに、あの子を送ってあげないといけませんね』
『ただ、その時に大隊長に会いたいと』
『…………』
『はぁ……』
大きなため息をつく。
『分かりました。話をしてみます』
◇
2027年3月31日(水) 07:35
隊所の外で、リツが一心に木刀を振っている。
額には、薄っすらと玉のような汗が浮かんでいた。
その様子を、少し離れた場所からヤシロが眺めている。
ふと、リツはヤシロが見ていることに気づいた。
『隊長、お疲れさまです』
『すまねぇな、邪魔したか』
『いえ、大丈夫です』
『私に何か?』
『今日もあいつらと会うか?』
『分からないですが、多分来ると思います』
『そうか……』
ヤシロは少し間を置いた。
『セオのことなんだが……3回太陽が昇った日の昼に行う』
『……分かりました』
『それと、大隊長も参加する。伝えておいてくれ』
『大隊長が……』
『あぁ、伝えておいてくれ』
『分かりました』
『あと、こちらから出向くので船を頼むと』
『はい、伝えておきます』
◇
2027年3月31日(水) 08:52
大阪湾、船上。
船は再び、大阪湾に浮かぶ島へ向かっていた。
海は穏やかで、昨日と変わらない島影が少しずつ大きくなっていく。
「水城さん」
「はい」
「今日はリツさんに、少し聞いてもらいたいことがあります」
「何をですか?」
「彼らが、何と戦っているのかです」
神谷は島へ視線を向けた。
「そうですね、軍隊ですもんね」
ひよりも島を見つめる。
「それと、どんな武器を使っているのか」
「分かりました」
「無理に聞き出す必要はありません。聞ける範囲で構いません」
「はい」
◇
船が島に近づくと、森の中からリツが現れる。
『ひよ姉!』
「リツ!」
船はそのまま島に接岸する。
リツからは、以前のような警戒感はない。
ひよりが船を降りると、リツが駆け寄ってきた。
『ひよ姉、隊長から伝言がある』
『ヤシロさんから?』
『3回太陽が昇った日の昼に、セオ姉を送る』
『……3回?』
「神谷さん、ちょっといいですか」
ひよりに呼ばれ、神谷がやってくる。
『3回太陽が昇った日の昼に、セオ姉を送る』
『それと、大隊長も来る』
『こちらから出向くので、船を頼むと隊長が言ってた』
ひよりから話を聞いた神谷は、しばらく黙り込んだ。
「……分かりました。それで大丈夫ですとお伝えください」
神谷は少し考えてから、リツを見る。
「ところでリツさん、大隊長を迎えるにあたって、何か礼式というものはあるのでしょうか?」
『……』
『絶対動くな! 動くと危ない!』
「……動くな、というのは?」
『とりあえず姿が見えたら動くな。それだけ』
「わ、分かりました。そうします」
「それ以外に、何か準備しておいた方がいいものはありますか?」
リツの目に悲しみがあらわれる。
『セオ姉は花が好きだった。だから花をたくさんお願い……』
「分かりました。日本中の花を用意します」
『頼んだ!』
リツの目に明るさが戻った。
神谷はひよりに目を向ける。
目が合ったひよりは頷く。
ひよりはリツに向き直った。
『リツ、神谷さんが聞きたいことがあるって』
『なに?』
「リツさんたちは、普段何と戦っているんですか?」
ひよりが神谷の言葉をリツに伝える。
『獣だ』
ひよりがその言葉を神谷へ伝える。
「獣ですか?」
『うん、大きいのから小さいのまでいる。悪いやつは村や町を襲う』
「人と戦うことはないのですか?」
『昔はあったと聞いたけど今はない。個人的な戦いはあるけど』
「個人的な戦いとは?」
『どっちが強いかみたいなやつだ』
「分かりました」
神谷は少し考えてから、リツの腰にある刀へ目を向けた。
「戦うのは、その刀で?」
『私はこれ! 他の隊員は槍や弓、刀じゃない剣を使う人もいる』
「先日、島へ侵入した者たちが使っていたような武器を持つ人はいますか?」
『あの大きな音が出る武器か?』
「はい」
『あんなものは初めて見た』
「そうですか……ありがとうございました」
リツはひよりを見る。
『ひよ姉、今日は何を持ってきたんだ?』
『今日はねぇ――』




