第六十四話 同盟
2027年3月28日(日) 23:47
羽田空港。
アメリカから到着した便から、乗客が次々と降りてくる。
その中に、クロフォードの姿があった。
長時間のフライトを終えたばかりだったが、その足取りに疲れは見えない。
クロフォードは到着ロビーへ出ると、スマートフォンを取り出した。
画面には、明日の予定が表示されている。
総理官邸。
クロフォードは画面を閉じ、そのまま出口へ向かった。
◇
2027年3月29日(月) 09:00
総理官邸。
藤堂の前に、クロフォードが座っていた。
「突然の訪問、申し訳ありません」
「いえ。それで、お話というのは?」
「島の調査についてです」
藤堂がクロフォードを見る。
「今後の島の調査に、アメリカも参加させていただきたいと考えています」
「共同調査ということですか?」
「はい」
「どういうことですか?」
「島は世界中から注目されています。また、今後、世界的な価値を持つものが発見される可能性もあります」
クロフォードは続ける。
「同盟国として、ぜひ我々も調査に参加させていただきたいと考えています」
藤堂は少し考えた。
「アメリカの意向は分かりました」
「ただ、現在は島の調査そのものを中断しています」
「中断?」
「はい。今回の事件の影響です。また、死亡した女性が唯一の島との接触者だったため、現在は調査を再開できる状況にありません」
「……そうですか」
クロフォードは少し考える。
「侵入者の1人が死亡し、残る4人が行方不明であることは聞いています、事件が起きた理由については、何か分かったのでしょうか?」
「捜査の過程で、5人への依頼元とみられる会社を特定しています。ドバイに登記された会社です」
藤堂は続ける。
「その会社を調べたところ、アメリカ企業との繋がりが確認されています」
クロフォードの表情がわずかに変わった。
「……アメリカ企業?」
「はい、この企業です」
藤堂は資料をクロフォードへ見せた。
クロフォードが資料へ目を落とす。
「……アークウェル・インダストリーズ」
「大統領から聞いていないのですか?」
クロフォードが、わずかに目を見開いた。
「……はい」
クロフォードは黙った。
しばらくして、藤堂を見る。
「事情は分かりました。一旦、失礼します」
クロフォードは席を立った。
◇
2027年3月29日(月) 11:26
都内のホテル。
部屋へ戻ったクロフォードは、上着を脱いで椅子へ掛けた。
藤堂の言葉が、頭に残っていた。
『大統領から聞いていないのですか?』
「……」
クロフォードはベッドに腰を下ろした。
ふと、日本へ発つ前のことを思い出す。
ホワイトハウス。
大統領執務室へ向かう途中、廊下ですれ違った男。
FBI長官だった。
クロフォードはスマートフォンを取り出すと、連絡先から1人の名前を選んだ。
呼び出し音が数回鳴る。
『もしもし』
「俺だ」
『クロフォード? 日本じゃなかったのか?』
「ああ。今、日本にいる」
『どうした?』
「少し聞きたいことがある」
『何だ?』
「大統領から、何か調べろと言われていないか?」
一瞬、相手が黙った。
『……何の話だ?』
「アークウェル・インダストリーズだ」
『……』
「どこまで分かった?」
『……』
『待ってくれ。俺の口からは……』
「……」
『……すまない』
「分かった、ありがとう」
クロフォードは電話を切った。
しばらくスマートフォンを見つめる。
そして、再び連絡先を開いた。
今度は別の人物へ電話をかける。
『珍しいな。どうした?』
「調べてほしい会社がある」
『会社?』
「ああ。アークウェル・インダストリーズと、ドバイのアルディーン・トレーディングだ」
『……何を調べればいい?』
「この2社の間に、金の流れがないか調べてほしい」
『簡単に言ってくれるな』
「できるか?」
少し間があった。
『……分かった。調べてみる』
「頼む」
電話が切れた。
◇
数時間後。
スマートフォンが鳴った。
「どうだった?」
『直接じゃない』
「どういうことだ?」
『いくつか会社を経由している。ただ、アークウェルから出た金が、アルディーンまで流れている』
「間違いないのか?」
『ああ』
「何のための金かは?」
『そこまでは分からない』
「……分かった。十分だ」
『クロフォード』
「何だ?」
『何を調べてる?』
「……ちょっとな」
『……そうか』
「ありがとう」
クロフォードは電話を切った。
窓の外へ目を向ける。
アークウェル・インダストリーズ。
その先にある、アルディーン・トレーディング。
この2つは繋がった。
あとは――
なぜ、事件が起きたのか。
◇
クロフォードは、リードへ電話をかけた。
『クロフォードか』
「大統領、島で起きた事件についてお聞きしたいことがあります」
『なんだ』
「アークウェル・インダストリーズと、ドバイのアルディーン・トレーディングに繋がりがあることは、こちらでも確認しました」
『……』
「問題は、なぜ事件が起きたのかです」
クロフォードは続ける。
「アークウェルが、島への侵入を指示したのですか?」
『いや』
リードは短く答えた。
『今回の事件は、あくまで現場の暴走によって起きたものだ』
「……」
『アークウェルが依頼したのは、島周辺の調査だけだ。島への上陸までは指示していない』
「それを、いつ知ったのですか?」
『……』
「私を日本へ送る前ですね」
しばらく沈黙が続いた。
『……ああ』
「なぜ、それを日本に伝えず、私を日本へ送ったのですか?」
『……』
「それは、日本とアメリカの同盟関係に亀裂を入れる行為です」
『……』
「この事実も含め、後は私に任せてください。よろしいですね」
しばらく沈黙が続いた。
『……ああ、分かった』
◇
総理官邸。
藤堂の前に、再びクロフォードが座っていた。
「総理、分かったことをお伝えしに来ました」
「……聞きましょう」
クロフォードは、これまでに判明した内容を藤堂へ伝えた。
藤堂は黙って話を聞いていた。
「以上が、現時点で確認できている内容です」
「……そうですか」
クロフォードは藤堂を見る。
「我が国の企業が関係したことで、ご迷惑をおかけしました」
藤堂は何も答えなかった。
「その上で、改めてお願いがあります」
「……」
「島の調査を、アメリカと共同で行っていただきたい」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、藤堂が口を開いた。
「島の調査は、日本が主体となって行います」
「……」
「今回の事件で、島の方が1人亡くなりました」
藤堂はクロフォードを見る。
「島は日本の目の前にあります。これから島との関係を築いていく上でも、日本が責任を持って進めるべきだと考えています」
「……分かりました」
「ただ……」
クロフォードが藤堂を見る。
「アメリカにも、協力をお願いします」
クロフォードは一瞬、藤堂を見つめた。
「ありがとうございます」
クロフォードが手を差し出した。
藤堂もその手を握った。




