第六十二話 協力
2027年3月27日(土) 20:37
総理官邸、官邸対策室。
「侵入した5人への依頼元について、進展がありました」
藤堂が担当者を見る。
「聞かせてください」
「依頼元とみられる会社を特定しました。ドバイに登記されていました」
「どのような会社ですか」
「登記上は事業を行っている会社ですが、所在地を確認したところ、実際に事業を行っている形跡がありませんでした」
「ペーパーカンパニー……」
「その可能性が高いと見ています」
「ただ、代表者について調べたところ、アメリカのある企業との繋がりが確認されています」
藤堂の表情が変わる。
「アメリカ企業が依頼したということですか?」
「そこまでは分かっていません。現時点では、ドバイの会社とその企業に何らかの関係がある可能性がある、という段階です」
「調べられますか?」
「日本側だけでは限界があります。アメリカ側の協力が必要になります」
「分かりました」
藤堂は少し考えた。
「島で行方不明となっている4人については?」
「現状では、死亡の事実を確認することもできません」
「……やはり、島に入れないからですか?」
「はい。遺体が島内にあると思われる以上、上陸できなければ検視も司法解剖もできません。それに――」
担当者は一度言葉を切る。
「島に日本の法律が及ぶのかについても、現時点では明確になっていません」
「……そうでしたね」
「はい」
「病院で亡くなった男は?」
「司法解剖の結果、全身の急激な凍結が死亡につながったとみられます」
「凍死……」
「はい。ただ、病院内で低体温になるような状況は確認されていません。なぜ凍死したのか、現時点では分かっていません」
「殺人の可能性は?」
「否定できません。しかし、殺害されたとすれば、どのような方法が使われたのかも不明です。現時点では事件性を判断できません」
藤堂は黙った。
そして、官房長官へ目を向ける。
「官房長官、リード大統領との電話会談を用意して下さい」
「分かりました」
「できれば急ぎで」
「はい」
◇
藤堂は、アメリカ大統領との電話回線が繋がるのを待っていた。
『藤堂総理』
「大統領」
短い挨拶を交わす。
「島で起きた事件については、聞いていますか?」
『ああ、聞いている』
「その件で、お話があります」
藤堂は、これまでの捜査で判明した内容を伝えた。
「現時点で、我が国はその企業が今回の事件を指示したと断定できる証拠はありません」
『ああ』
藤堂は、少し間を置いた。
「今回……島との関係を築く上で、極めて重要な人物が亡くなりました」
「彼女は我々との対話に応じ、こちらの文化を学び、こちらを理解しようとしてくれていた人物です」
「日本にとって――」
「友と呼べる人物でした」
『……』
「ですので、アメリカに協力をお願いしたい」
藤堂は静かに続けた。
「関係した者には、相応の責任を負っていただく必要があります」
しばらく、沈黙が続く。
『……分かった』
◇
アメリカ合衆国、ワシントンD\.C\.
リードは受話器を置いた。
しばらく、そのまま電話を見つめる。
やがて顔を上げた。
「おい、FBI長官を呼んでくれ」
「はい」
数分後。
扉が開き、1人の男が入ってきた。
「お呼びでしょうか」
「ああ」
リードは手元の用紙を男へ差し出した。
「今すぐ、これを調べてくれ」
男が用紙を受け取る。
「どこまで調べますか?」
「全部だ」
リードは男を見た。
「会社、経営者、資金、人間関係。ここに繋がるものは全部調べろ」
「分かりました」
「今すぐだ!」
◇
数時間後。
大統領執務室。
「予備調査の結果、ドバイの会社とこの企業に繋がりがあることは確認できました」
FBI長官が調査結果をリードへ差し出した。
リードはそれを受け取り、目を通していく。
「……勝手なことを」
「どうなさいます?」
「しばらく伏せる」
リードは用紙を机へ置いた。
「引き続き調査してくれ」
「分かりました」
「おい、クロフォードを呼んでくれ」
「はい」
◇
大統領執務室の扉が開いた。
クロフォードが中へ入る。
「お呼びですか、大統領」
「ああ」
リードはクロフォードを見る。
「クロフォード、今すぐ日本へ向かってくれ」
「日本へ?」
「着いたらすぐ、島の共同調査に入れ」
クロフォードがわずかに眉を寄せる。
「それでは、日本との共同調査が――」
「決まっていない」
「……」
「お前が向こうで話をつけてくれ」
クロフォードはしばらくリードを見つめた。
「……分かりました」




