第四十五話 熱源反応
2027年3月17日(水) 17:06
大阪府庁の危機管理室に戻った高城は、自席に着く間もなく呼び止められた。
「知事、官邸から連絡です」
「内容は?」
「仮称『島』の外周から2kmを、当面の立入禁止区域に設定する方針です。大阪府、大阪市と具体的な対応を協議したいとのことです」
「2km……」
高城は大型モニターへ目を向けた。
「地図を出してください。島の外周から2kmの範囲を」
「はい」
大阪湾の地図が表示される。
島の外周から2kmの範囲が示された。
その一部は海上だけではなく、大阪側の陸地にもかかっている。
「陸上はどこまで入っていますか?」
「確認します」
職員が地図を拡大する。
「大阪市住之江区、南港南地区の一部が該当します」
「住宅は?」
「該当する範囲に住宅地はありません。工場や倉庫、港湾施設などが中心です」
高城は頷いた。
「区域内の事業所を確認してください。大阪市とも連携して、各事業所に立入禁止の理由を説明し、従業員の退避をお願いします」
「はい」
「警察にも連絡を。道路の規制が必要になる場所を確認してください」
「分かりました」
「港湾関係は大阪港湾局と調整を。海上については海上保安庁と情報を共有してください」
指示を受けた職員たちが一斉に動き始めた。
◇
2027年3月17日(水) 17:41
総理官邸。
対策室では、島をめぐる各機関からの報告が続いていた。
藤堂は大型モニターに映る大阪湾の地図を見ていた。
「総理」
職員の声に、藤堂が振り返る。
「海上保安庁のヘリからです。映像を繋ぎます」
「お願いします」
大型モニターが切り替わった。
白と黒で表示された赤外線映像が映し出される。
『官邸、こちら海上保安庁。島の海岸線付近で熱源反応があります』
「熱源?」
『はい。赤外線捜索監視装置で確認しました』
「生物ですか?」
『現時点では分かりません。ただ――動きがあります』
藤堂は画面を見つめた。
海岸線に広がる森。
その中に、周囲とは異なる反応が映っている。
それが動いた。
「光学カメラで捉えることはできませんか?」
『木々に遮られて、光学では確認できません』
「……」
しばらく、赤外線映像だけが大型モニターに映り続ける。
『……ちょっと待ってください』
「どうしました?」
『対象が海岸線へ向かっています』
画面の中で、熱源がゆっくりと森の外側へ近づいていく。
『光学に切り替えます』
映像が切り替わり、カメラが海岸線の森を捉える。
数秒が過ぎた。
その時――
木々が揺れた。
森の奥から、何かが姿を現した。
カメラがその姿を捉える。
誰も言葉を発しなかった。
そこに立っていたのは――
若い女性だった。




