第四十三話 安堵
2027年3月17日(水) 15:08
大阪市内。
テレビには、大阪湾に現れた巨大な大地が映し出されていた。
『政府によりますと、今回の現象による死者、重傷者は確認されていません。また、潮位の変化による大規模な浸水被害も確認されていないということです』
画面の下には、速報の文字が流れている。
それを見ていた妻が、ゆっくりと息を吐いた。
「……助かったのね」
隣にいた夫が、何も言わずに頷く。
妻はもう一度テレビを見る。
その目から、涙がこぼれた。
「本当に……よかった」
夫がその肩を抱いた。
◇
大阪市内のコンビニ。
「いや、本当にすごかったって!」
スマートフォンを手にした若い男性が、興奮した様子で話していた。
「空から島だぞ? 島! あんなもの、もう一生見られないぞ!」
「俺も撮ったよ」
「見せて!」
画面には、大阪湾へ向かって降りていく巨大な大地が映っている。
「これ、すごいだろ」
「映画みたいだな」
「映画でもこんなのないって!」
その横では、店員が商品の補充を始めていた。
店の外を歩く人の数も、少しずつ増えている。
立ち止まって大阪湾の方角を見る者。
スマートフォンでニュースを確認する者。
誰かと電話をしながら歩く者。
街は少しずつ動き始めていた。
◇
大阪市内のマンション。
父親はテレビを見つめていた。
「……もう大丈夫みたいだ」
その言葉に、妻が小さく息を吐いた。
「よかった……」
「もう何も起きない?」
そばにいた男の子が父親を見上げる。
「それは分からない。でも、大きな被害は出てないみたいだ」
男の子はテレビへ目を向けた。
画面には、大阪湾に現れた巨大な大地が映っている。
「あれ、島なの?」
父親も画面を見る。
「……島に見えるな」
「行ってみたい」
「それは絶対だめ」
今度は妻が即答した。
父親が思わず笑う。
「まあ、それはお父さんも同じ意見だ」
◇
2027年3月17日(水) 15:41
東京。
新聞社の編集部では、怒号にも似た声が飛び交っていた。
「大阪支局から映像来たぞ!」
「海保の発表は?」
「まだです!」
「海外の反応もまとめろ! 各国政府の声明を確認!」
「総理が大阪を出る!」
「官邸に戻るのは何時だ!」
「確認中です!」
壁に並んだモニターのほとんどが、同じものを映している。
大阪湾に現れた巨大な大地。
相沢は自分の席から、その映像を見つめていた。
7日前。
大阪の空に、巨大な紋様が現れた。
誰にも正体は分からなかった。
そして今日。
その紋様から、大地が現れた。
今、それは大阪湾にある。
「相沢!」
声に振り返る。
デスクがこちらを見ていた。
「総理が東京へ戻る。官邸へ行け」
「……」
「相沢?」
相沢はモニターへ目を戻した。
大阪湾。
そこにある、見たこともない大地。
しばらく画面を見つめる。
そして、デスクへ向き直った。
「俺を大阪に行かせて下さい!」




