↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】『彼方と日常の境界、そのリアル』 ―ある日、大阪上空に未知の紋様が現れたら、現実社会はどう動く?―  作者: そらと ソラ
プロローグ カウントダウン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/84

第三十一話 知る者

2027年3月15日(月) 13:24


 大阪府庁。

 窓の外では、朝から降り始めた雨が続いていた。

 危機管理室では、電話の呼び出し音と職員の声が途切れることなく響いている。


「道路状況、報告します」


 職員の声に、危機管理監が顔を上げた。


「東向き、京都東を先頭に渋滞。通過に約40分。西向きは中国池田を先頭に約30分、月見山を先頭に約25分です」

「事故は?」

「いずれもありません。交通量の増加です」

「大阪から出る車か」

「その可能性が高いです」


 危機管理監が地図へ目を落とした。


「まだ動いてはいるな」

「はい。ただ、交通量は増え続けています」


 別の職員が振り返る。


「鉄道です。新大阪を中心に利用客が増えています」

「どちらへ?」

「東京方面、福岡方面、両方です」

「駅での規制は?」

「現時点ではありません。各線とも運行は継続しています」


 電話が鳴る。

 別の電話も鳴る。


「はい、大阪府危機管理室です」

「――」

「分かりました。引き続き状況をお願いします」


 受話器を置いた職員が声を上げた。


「小売関係です。府内各地で水、米、保存食、トイレットペーパーなどの購入が急増しています。一部店舗で品切れが出始めています」


 高城が振り返った。


「物流は?」

「動いています。各社、追加配送で対応しています」

「府の備蓄を確認してください」

「放出しますか?」

「まだです」


 高城は首を横に振る。


「いつでも出せるように、準備だけしておいてください」

「分かりました」

「避難所は?」

「市町村に確認しています」

「開設が必要になった場合、すぐ動けるよう準備を要請してください」

「はい」


 危機管理監が資料をめくる。


「警察と消防は?」

「大阪府警、各消防本部とも通常体制を維持しています」

「明日以降、出動が増える可能性があります。人員体制の確認と、必要な準備を要請してください」

「分かりました」

「医療は?」

「府内の災害拠点病院を中心に確認を始めています」


 高城が続ける。


「救急の受け入れ体制、空床、医薬品。それから非常電源も確認してください」

「はい」

「消防には救急車の稼働状況も確認を。警察には主要道路と駅周辺の警戒をお願いしてください」

「伝えます」


 次々と指示が飛ぶ。

 道路。

 鉄道。

 物流。

 食料。

 避難所。

 警察。

 消防。

 医療。

 何かが起きたとき、大阪が動き続けるために必要なものが、一つずつ確認されていく。

 一人の職員が、手元の資料から顔を上げた。


「知事」

「はい」

「……何に備えるんですか」


 室内の声が、わずかに静まった。

 高城はすぐには答えなかった。

 窓の向こうを見る。

 雨に煙る大阪の街。

 その上には、厚い雲が広がっている。


「……分かりません」

「…………」


 高城は職員へ視線を戻した。


「分からないから、できることを全部やります」


 職員が小さく頷いた。


「はい」


    ◇


2027年3月15日(月) 21:47


 新聞社の一角には、まだ多くの明かりが残っていた。

 相沢は机に座ったまま、パソコンの画面を見つめている。

 朝から何杯目になるのか分からないコーヒーは、もう冷めていた。

 スマートフォンが震える。

 相沢はすぐに手に取った。


「はい、相沢です」

「――」

「……本当か?」

「――」

「いや、待ってくれ。それは確認が取れてるのか」

「――」


 相沢の表情が変わった。


「いつからだ」

「――」

「日本側も?」

「――」

「……分かった」


 少し間を置く。


「悪い。もう一度確認してくれ。絶対に間違いないってところまで」

「――」

「ああ。頼む」


 電話を切る。

 相沢はスマートフォンを机に置いた。

 しばらく動かなかった。

 朝から追い続けてきたものが、一本につながり始めていた。


    ◇


 22:31

 再び電話が鳴った。


「はい」

「――」

「オーストラリアは?」

「――」

「本人から?」

「――」

「……そうか」


 相沢はメモを取る。


「カウントダウンだという認識で間違いないんだな」

「――」


 ペンが止まった。


「それを知ったのはいつだ」

「――」

「……そんな前から?」

「――」

「分かった。ありがとう」


 電話を切った。

 メモの上には、いくつもの時刻と名前が並んでいる。

 米軍。

 オーストラリア。

 複数の関係者。

 それぞれ別の場所から集めた話が、同じ一点を指していた。

 相沢は椅子の背にもたれた。


「あの時には知っていたのか」


 誰に聞かせるでもなく呟く。


    ◇


 23:08

 相沢はパソコンの前に座っていた。

 画面には、新しい原稿が開かれている。

 何も書かれていない。

 キーボードに手を置く。

 動かない。

 今日一日だけでも、大阪では人が動き始めていた。

 スーパーでは商品が消え始め、高速道路では大阪を離れる車が増えている。

 鉄道でも、大勢が西へ、東へ向かっている。

 もしこれを出せばどうなる。

 明日の朝には、さらに多くの人が動く。

 いや、動くのレベルじゃない。

 しかも、大阪だけじゃ済まない。

 だが――。

 カウントが0になったとして、何が起きる?

 そこまでは誰も知らない。

 相沢はキーボードから手を離した。

 椅子から立ち上がる。

 しばらく、その場に立ったまま動かなかった。

 やがてスマートフォンを取り出した。

 SNSを開く。


『政府が何も言ってないんだからデマだろ』

『本当ならとっくに避難指示が出てる』

『17日13時03分って誰が言い出したんだよ』

『明日晴れたら分かる』

『怖い』


 次々と流れていく言葉を、相沢は黙って見ていた。

 朝なら、自分も同じだった。

 分からなかった。

 だから確認した。

 そして今は――知っている。

 相沢は画面を閉じた。

 席へ戻る。

 椅子に座った。

 もう一度、何も書かれていない原稿を見る。


「…………」


 両手をキーボードに置いた。


    ◇


2027年3月16日(火) 00:08


「デスク」


 少し離れた席にいた男が顔を上げる。

 相沢は画面へ目をやった。


「これ、お願いします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。