閑話
時間は、クロフォードがカウントダウンを知る前日、3月11日まで遡る。
2027年3月11日(木) 10:24
大阪府庁、危機管理室。
知事は受話器を置いた。
「どうでした?」
危機管理監が尋ねる。
「特に指示はなかった」
「どうします?」
知事は少し考えた。
「俺たちは、俺たちが出来ることをしよう」
机の上に広げられた大阪府の地図へ目を落とす。
「まず、国が府民の避難を決めた時のことをシミュレーションしよう」
危機管理監が頷いた。
◇
数時間後。
危機管理室の机には、新たな資料が積み上がっていた。
鉄道。
道路。
バス。
避難先。
病院や高齢者施設からの移送。
周辺府県への受け入れ要請。
限られた時間の中で、どれだけの府民を大阪から動かせるのか。
職員たちは条件を変えながら、何度も計算を繰り返した。
知事は、その結果を黙って見つめていた。
「……ダメか?」
「はい」
危機管理監が答える。
「府民全員となると、物理的に限界を超えています」
知事は資料へ目を落とした。
「大阪市民だけなら?」
「条件次第では、もしかすると……」
危機管理監はそこで言葉を止めた。
「でも、紋様は大阪市の外にもかかっている」
「はい」
「大阪市民だけというのは……」
「避難させる範囲に、根拠がありません」
知事は黙った。
大阪市だけではない。
では、どこまでなのか。
紋様の真下か。
大阪府全域か。
近隣府県までなのか。
そもそも、距離を取ることで安全になるのか。
何も分かっていない。
知事は椅子にもたれ、天井を見上げた。
「政府は……」
小さく息を吐く。
「これを公表するのだろうか」
危機管理監は答えなかった。
しばらくして、別の職員が口を開いた。
「知事」
知事が顔を向ける。
「もし、公表された場合は?」
知事は何も言わなかった。
机の上に広げられた大阪府の地図を見る。
長い沈黙のあと、ゆっくりと口を開いた。
「その時は……」




