第二十一話 0の時刻
2027年3月12日(金) 14:36
「何ですか、これは」
クロフォードは画面から目を離さなかった。
先ほど形を変えた記号は、すでに次の姿で静止している。
藤堂は答えず、机の上の資料を手に取った。
「これを見てください」
差し出された資料を、クロフォードが受け取る。
数枚の解析結果。
記号が変化した時刻。
その間隔。
10日から続く観測記録。
クロフォードの視線が、上から下へ動いていく。
そして止まった。
「こ、これは……」
もう一度、最初から目を通す。
結果は変わらない。
一定の周期。
変化を続ける記号。
そして、解析から導き出された時刻。
3月17日12時59分40秒
クロフォードは動けなかった。
もし、これが本当にカウントダウンなら。
0になった瞬間、何が起きる。
大阪だけなのか。
中心が大阪というだけで、日本全土に影響する可能性は。
アジアは。
世界は。
誰にも否定できない。
「……っ」
クロフォードの呼吸が浅くなる。
「大丈夫かね」
藤堂の声に、クロフォードは顔を上げた。
「……大丈夫です」
一度、大きく息を吸う。
手にしていた資料を閉じた。
「……状況は分かりました。今日は戻ります」
藤堂は何も言わなかった。
クロフォードは資料を机へ戻し、出口へ向かう。
その足取りは、ここへ入ってきた時とは明らかに違っていた。
扉へ手をかけようとした、その背中に藤堂の声が届く。
「クロフォード特使」
足が止まる。
「どうするかは、君に任せる」
クロフォードは振り返らなかった。
しばらくその場に立ち止まり、やがて扉を開けた。
◇
ホテルの部屋に戻ったクロフォードは、ジャケットを脱ぐこともなく椅子に腰を下ろした。
部屋は静まり返っていた。
窓の向こうには、いつもと変わらない東京の街が広がっている。
クロフォードは両手を組み、その間に視線を落とした。
――どうするかは、君に任せる。
藤堂の言葉が残っている。
報告すれば、この情報は自分の手を離れる。
大統領が知れば、国家安全保障の問題になる。
軍も動く。
情報機関も動く。
そして、アメリカだけで抱え続けられる保証もない。
だが、報告しなければ。
3月17日。
その日、何が起きるのか誰にも分からない。
クロフォードは顔を上げ、窓の向こうへ目を向けた。
東京の街には明かりが灯り始めている。
車が走り、人が歩いている。
いつもと変わらない一日が続いていた。
その誰もが、5日後に何が起きるのか知らない。
クロフォードは再び目を伏せた。
長い沈黙が続いた。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
顔を上げた。
立ち上がり、部屋に用意された通信端末へ向かう。
もう迷いはなかった。
回線を接続する。
しばらくして、相手につながった。
クロフォードは受話器を耳に当てる。
「大統領、クロフォードです」




