第九話 初接近
2027年3月10日(水) 08:56
海上自衛隊厚木航空基地。
4基のエンジンが轟音を響かせる中、P-1哨戒機は滑走路を加速する。
機首がゆっくりと持ち上がる。
巨体は朝の空へ舞い上がった。
◇
コックピットには、計器の作動音と4基のエンジンが発する低い響きだけが満ちていた。
「高度5,000フィート。」
「了解。」
「針路良し。」
P-1は相模湾上空へ出ると、西へ針路を取った。
やがて富士山が姿を現す。
眼下には駿河湾が広がる。
しかし、その景色へ目を向ける者はいない。
乗員全員の意識は、大阪上空の未知へ向けられていた。
◇
「まもなく大阪湾です。」
「了解。」
機内に響くのは、必要最小限の交信だけ。
観測機器、通信機器ともに異常なし。
P-1は大阪湾上空へ進入する。
前方には薄い雲。
機体はその中へ吸い込まれるように進んでいく。
白い雲がコックピットを包み込み、窓の外から景色が消えた。
数秒後――。
雲を抜ける。
その先に巨大な紋様が、コックピットの正面いっぱいに広がった。
誰もが思わず前方へ身を寄せる。
「目標視認。」
「……大きい。」
視線は自然と、幾重にも重なる巨大な円環を追う。
その内側には、無数の幾何学模様が隙間なく描かれている。
さらに視線を巡らせると、円周に沿って並ぶ見たことのない記号の列が目に入った。
だが、紋様はあまりにも巨大で、その全体はコックピットの窓から一度に収まりきらない。
「高度10,000フィートへ。」
「了解。」
P-1はゆっくりと高度を上げ始める。
「観測機器、スタンバイ。」
観測員の指先が、慣れた手つきで操作パネルを走る。
「スタンバイ完了。」
「観測開始!」




