第六十七話 虚無の王の答え
白銀の光が走る。
世界を貫く奔流。
攻略組。
守護者。
世界樹。
二百七十四の魂。
百年間積み重ねられた全てが一つとなり。
虚無喰らいへ叩き込まれる。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン――!!
音が消えた。
光だけが残る。
世界が真っ白に染まる。
誰も目を開けていられない。
ガルドの盾が軋む。
ミリアの結界が震える。
ヴァルクですら腕で顔を庇う。
それほどの力だった。
百年分。
いや。
それ以上。
世界そのものの一撃。
終末の門が悲鳴を上げる。
巨大な虚無の腕が砕ける。
黒い破片が飛び散る。
終焉そのものが崩壊していく。
『――――』
虚無喰らいが叫ぶ。
初めてだった。
苦痛を見せたのは。
そして。
ゼロは動かなかった。
逃げない。
防がない。
ただ。
その光を見つめていた。
静かに。
どこか懐かしそうに。
白銀の光が迫る。
あと数秒。
あと一瞬。
それで終わる。
全てが。
その時だった。
ゼロが呟く。
『そうか』
誰にも聞こえないほど小さな声。
だが。
シモンだけは聞いた。
『私は』
黄金の瞳が細まる。
『終わりしか知らなかった』
世界が静まる。
虚無が揺れる。
『だから分からなかった』
ゼロが空を見上げる。
世界樹を見る。
攻略組を見る。
シモンを見る。
『始まりを』
その瞬間。
ゼロの背後に広がっていた虚無が止まる。
無限に広がっていた終末が。
初めて。
静止した。
世界樹が震えた。
『まさか……』
アーサーが目を見開く。
カインも。
ヴァルクも。
誰も理解できない。
ただ一人。
アルファだけが静かに見ていた。
白銀の始原竜。
世界の始まり。
アルファがゼロを見る。
ゼロもアルファを見る。
そして。
二柱は同時に笑った。
まるで。
何億年も前から知り合いだったように。
『お前は変わらないな』
ゼロが言う。
アルファが応える。
『お前もな』
世界樹が呟く。
『創世と終焉……』
世界が生まれた時。
始まりと終わりは共にあった。
それが自然だった。
だが。
いつからか。
終焉は孤独になった。
終わらせる役目だけを背負い。
世界の外へ追いやられた。
そして。
虚無喰らいとなった。
ゼロは笑う。
少し寂しそうに。
少し嬉しそうに。
『長かった』
その声には。
初めて感情があった。
『本当に』
百年ではない。
千年でもない。
世界が生まれてからずっと。
終わり続けてきた存在。
その孤独が滲んでいた。
シモンは気付く。
この戦い。
本当は勝ち負けではなかった。
ゼロを倒す話ではない。
終焉を世界へ戻す話だった。
始まりと終わり。
創造と消滅。
欠けていた片方を取り戻すための物語。
その時。
白銀の光がゼロへ届く。
直撃する。
だが。
消滅しない。
代わりに。
光へ包まれる。
虚無が剥がれていく。
終末の門が崩れていく。
黒い世界が消えていく。
そして。
ゼロの身体が光へ変わり始めた。
黄金の瞳がシモンを見る。
『最後の召喚士』
シモンは黙って見返す。
『感謝する』
短い言葉だった。
だが。
それで十分だった。
ゼロが笑う。
初めて。
心から。
『楽しかった』
その瞬間。
虚無の王が光へ変わる。
終末の門が閉じる。
虚無の心臓が砕ける。
侵食された世界樹の根が再生を始める。
黒かった部分が。
少しずつ緑へ戻っていく。
世界が息を吹き返す。
そして。
静寂が訪れた。
誰も動かなかった。
ただ。
空を見上げていた。
百年間。
終われなかった戦い。
百年間。
終わらなかったレイド。
その全てが。
ようやく終わったのだと。
誰もが理解していた。
だが。
その時。
世界樹が静かに告げる。
『契約者』
シモンが振り向く。
世界樹の声は優しかった。
だが。
どこか複雑だった。
『まだ終わっていません』
シモンの表情が変わる。
世界樹の根の奥。
最深部。
そこに。
最後の光が残っていた。
そして。
アーサーの身体が。
ゆっくりと崩れ始めていた。




