第六十六話 百年越しの一撃
虚無が手を伸ばした。
それだけだった。
たったそれだけで。
世界が崩れ始める。
終末の門の向こう。
無限の闇。
無限の終焉。
その中心から現れた巨大な腕が。
世界樹へ向かって伸びていた。
触れれば終わる。
誰もが理解した。
世界樹が消える。
守護者が消える。
世界が消える。
全てが終わる。
「止めるぞ」
アーサーが言った。
静かな声だった。
だが。
攻略組全員が武器を握る。
百年前と同じだった。
団長の一言。
それだけで十分だった。
「おう」
ヴァルクが笑う。
「当たり前だ」
エリオスが双剣を回す。
「今さら逃げるかよ」
カインが剣を構える。
「総員」
黄金の光が走る。
「突撃準備」
その瞬間。
攻略組全員の身体へ光が繋がった。
世界樹。
守護者。
召喚陣。
二百七十四の魂。
全てが一つになる。
シモンはその中心にいた。
胸の契約紋が燃える。
熱い。
身体が光へ変わっていく。
世界樹の声が響く。
『契約者』
『これが最後です』
シモンは頷く。
覚悟はできていた。
百年間。
誰も諦めなかった。
だから。
ここで終わらせる。
終わらせて。
全員で帰る。
それだけだった。
その時。
ゼロが静かに見ていた。
黄金の瞳。
そこに怒りはない。
憎しみもない。
ただ。
少しだけ寂しそうだった。
『不思議だ』
シモンが顔を上げる。
ゼロは空を見る。
アルファを見る。
世界樹を見る。
攻略組を見る。
そして。
静かに言った。
『何故そこまで繋がろうとする』
誰も答えなかった。
だが。
アーサーが笑った。
「簡単だ」
剣を肩へ担ぐ。
百年前。
レイド開始前によくしていた仕草。
「楽しいからだ」
ゼロが黙る。
「仲間と馬鹿やるのが」
「飯食うのが」
「笑うのが」
「喧嘩するのが」
アーサーが振り返る。
攻略組を見る。
百年前と変わらない連中。
百年経っても馬鹿な連中。
そして。
少しだけ笑った。
「生きるのがな」
沈黙。
長い沈黙。
ゼロは何も言わない。
ただ。
その瞳が僅かに揺れた。
初めてだった。
虚無の王が迷いを見せたのは。
だが。
終焉は止まらない。
巨大な腕がさらに迫る。
世界樹まであと僅か。
時間切れだった。
「シモン」
アーサーが呼ぶ。
「何だ」
「レイドリーダー交代だ」
シモンが目を見開く。
アーサーは笑った。
「最後くらい任せる」
百年前。
聞けなかった言葉。
百年間。
聞けなかった言葉。
最強の男が。
初めて背中を預けた。
シモンも笑う。
「ああ」
蒼雷を掲げる。
世界が共鳴する。
守護者達が咆哮する。
アルファが翼を広げる。
攻略組全員が武器を掲げる。
二百七十四の魂が輝く。
そして。
世界召喚が完成する。
眩い光。
世界そのものが一つになる。
シモンは叫んだ。
「攻略組!!」
全員が笑う。
「総攻撃だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その瞬間。
百年分の想い。
百年分の願い。
百年分の絆。
その全てを乗せた白銀の光が。
虚無喰らいの完全体へ向かって放たれた。
そして。
ゼロはその光を見つめながら。
初めて小さく微笑んだ。
まるで。
ずっと探していた答えを見つけたように。




