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第六十五話 終焉の本質

終末の門が開き切った。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――

世界が軋む。

いや。

軋んでいるのは世界ではない。

世界という概念そのものだった。

空間が崩れる。

時間が歪む。

光が消える。

音が消える。

そして。

存在が消える。

攻略組の一人が息を呑んだ。

「なんだ……これ……」

誰も答えられない。

目の前で起きている現象は。

戦闘ではなかった。

災害でもなかった。

終わりだった。

純粋な終焉。

それそのものだった。

ゼロの身体が浮かぶ。

黒い外套が揺れる。

黄金の瞳だけが輝いている。

だが。

その姿も少しずつ崩れ始めていた。

人の形が消える。

腕が霧になる。

足が闇へ溶ける。

輪郭が曖昧になる。

まるで。

最初から人間などではなかったように。

『見せよう』

静かな声。

世界中へ響く。

『終わりとは何か』

その瞬間だった。

終末の門の向こう。

無限の虚無が蠢く。

そして。

何かが現れ始めた。

巨大。

あまりにも巨大。

始原竜アルファですら小さく見える。

世界樹ですら。

根の一本に見えるほど。

それは形を持たなかった。

見る者によって姿が変わる。

攻略組には滅びた街に見えた。

ミリアには焼け落ちた故郷に見えた。

ガルドには守れなかった仲間に見えた。

ヴァルクには百年間の孤独に見えた。

エリオスには失われた時間に見えた。

シモンには――

サービス終了の日に見えた。

ログアウトの画面。

仲間達の消える姿。

届かなかった最後の言葉。

帰れなかった日常。

百年前の終わり。

『それが私だ』

ゼロの声が響く。

『人は終わりを恐れる』

『だから私を恐れる』

『人は失うことを恐れる』

『だから私を拒絶する』

虚無が広がる。

終末の門がさらに脈打つ。

『だが』

黄金の瞳が細まる。

『終わりなき世界は存在しない』

誰も反論できない。

事実だった。

人も。

街も。

国も。

世界も。

いつか終わる。

それが真理だ。

ゼロは続ける。

『私は悪ではない』

『必要な現象だ』

静かな声。

そこに嘘はなかった。

だから厄介だった。

ゼロは悪意で世界を壊しているわけではない。

正しい。

ある意味では。

世界樹も否定しない。

アルファも否定しない。

終焉は必要だ。

それは事実だった。

だが。

その時。

アーサーが笑った。

「知ってるさ」

ゼロが視線を向ける。

アーサーは肩を竦めた。

「そんなこと百年前から知ってる」

攻略組も頷く。

カインも。

ヴァルクも。

エリオスも。

全員知っている。

仲間が消えること。

失うこと。

終わること。

百年前。

嫌というほど経験した。

「でもな」

シモンが前へ出る。

蒼雷を構える。

その背後では。

世界樹の光が広がっていた。

攻略組。

守護者。

二百七十四の魂。

全てが繋がっている。

「終わるから意味があるんだろ」

ゼロが黙る。

「終わるから必死になる」

「終わるから守りたいと思う」

「終わるから一緒に笑う」

蒼雷が輝く。

世界樹が共鳴する。

アルファが咆哮する。

「終わりだけじゃ世界にならない」

静寂。

そして。

シモンは笑った。

「始まりがあるから世界なんだ」

その瞬間だった。

ゼロが目を見開く。

初めてだった。

虚無の王が。

言葉を失ったのは。

そして。

世界樹が輝く。

アルファの白銀の鱗が光る。

攻略組の魂が共鳴する。

百年間。

誰も辿り着けなかった答え。

終焉を否定するのではない。

終焉だけでは完成しない。

始まりと終わり。

創造と消滅。

その両方があって初めて世界になる。

世界召喚の完成条件。

それは。

終焉を倒すことではなかった。

終焉を世界へ組み込むことだった。

ゼロの表情が変わる。

初めて。

本当に初めて。

困惑した顔だった。

『……なるほど』

黄金の瞳が揺れる。

『そういう答えか』

その瞬間。

終末の門の向こうで。

巨大な虚無が動いた。

今までとは違う。

本気だった。

世界そのものを飲み込む終焉。

虚無喰らいの完全体。

それが。

ゆっくりとこちらへ手を伸ばした。

そしてアーサーが剣を抜く。

カインが黄金の光を纏う。

ヴァルクが大剣を担ぐ。

エリオスが双剣を回す。

シモンは蒼雷を握る。

百年越しの仲間達が並ぶ。

最終決戦。

本当の最後の一撃を放つ時が来ていた。

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