第六十三話 創世と終焉
世界が砕けた。
いや。
砕けたように見えただけだった。
始原竜アルファとゼロが激突した瞬間。
常識という概念そのものが吹き飛んだ。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン――!!
音が消える。
光が消える。
色が消える。
全てが白く染まった。
攻略組ですら目を開けていられない。
ガルドが盾を構える。
ミリアが防御結界を展開する。
カインが黄金の障壁を張る。
それでも足りない。
衝突の余波だけで世界が削れていく。
「なんだよ……これ……」
エリオスが呆然と呟く。
ヴァルクですら言葉を失っていた。
百年前。
どれほどのレイドを経験しても。
こんな戦いは見たことがない。
光の奔流の中。
アルファが咆哮する。
白銀の翼が広がる。
その羽ばたき一つで無数の星が生まれる。
いや。
実際に生まれていた。
小さな光。
命の種。
可能性の欠片。
世界の始まりそのものがそこにあった。
対するゼロ。
虚無が膨れ上がる。
星が消える。
光が消える。
生まれたばかりの世界が塵となって崩壊する。
創造。
消滅。
相反する力が正面からぶつかり合う。
『相変わらずだな』
ゼロが笑う。
『何も学ばない』
アルファの白銀の瞳が細まる。
『終わりは必要だ』
ゼロが続ける。
『世界は必ず腐る』
『命は必ず歪む』
『文明は必ず滅びる』
虚無が広がる。
その言葉には重みがあった。
嘘ではない。
事実だ。
世界は永遠ではない。
いつか終わる。
それは真理だった。
『だから私が必要だ』
ゼロが両腕を広げる。
『終わらせる者として』
アルファは静かだった。
怒らない。
否定しない。
ただ。
静かに答えた。
『だからこそ』
世界樹が輝く。
海が揺れる。
風が吹く。
炎が燃える。
『始まりも必要だ』
白銀の光が爆発した。
ゼロの虚無を押し返す。
二つの力が拮抗する。
だが。
シモンは気付いていた。
アルファの光が少しずつ弱くなっている。
「まずいな……」
世界樹が答える。
『当然です』
『アルファは完全ではありません』
シモンの表情が変わる。
『本来なら』
『世界そのものから力を得ます』
『しかし今は違う』
侵食された世界。
傷付いた世界樹。
百年間消耗し続けた守護者たち。
力が足りない。
このままでは押し切れない。
その時だった。
アーサーが前へ出る。
「ようやく気付いたか」
笑っている。
百年前。
最終レイドで最後まで笑っていた時の顔だった。
嫌な予感がする。
シモンは知っている。
この顔をしたアーサーは。
大抵ろくなことを考えていない。
「おい」
アーサーが振り返る。
「何だ」
「やめろ」
即答だった。
アーサーは吹き出した。
「まだ何も言ってないぞ」
「言わなくても分かる」
「成長したな」
「お前のせいだ」
攻略組から笑いが漏れる。
だが。
誰も笑顔ではなかった。
皆気付いている。
アーサーが何を考えているのか。
百年前と同じだ。
誰かが犠牲になる方法。
誰かが世界を救う方法。
そして。
その役を引き受けるのは。
いつもこいつだった。
アーサーは空を見上げる。
アルファとゼロ。
創世と終焉。
二柱の戦い。
そして静かに言った。
「世界召喚は未完成だ」
シモンが黙る。
「完成させるには最後の鍵がいる」
世界樹が沈黙する。
カインも。
ヴァルクも。
エリオスも。
全員が理解していた。
最後の鍵。
それが何なのか。
アーサーは笑った。
百年前。
仲間たちを率いていた時と同じ笑顔で。
「俺の役目だ」
その瞬間。
世界樹の根が眩く輝き始めた。
アーサーの身体が光へ変わっていく。
百年間。
世界を支え続けた契約者。
その存在そのものが。
世界召喚の最後のピースだった。
「待て!!」
シモンが叫ぶ。
だが。
アーサーは振り返らない。
「お前ら」
静かな声だった。
「百年遅れのレイドだ」
光が強くなる。
世界そのものが共鳴する。
「最後くらい」
黄金の粒子が舞う。
攻略組全員を照らす。
「クリアしてみせろ」
そして。
アーサーの身体が。
世界樹の光へ溶け始めた。




