第六十二話 始まりの竜
白銀の瞳が開く。
世界が止まった。
誰も動けない。
誰も声を出せない。
虚無喰らい。
終焉の王。
攻略組。
世界樹。
その全てが沈黙する。
圧倒的だった。
強いとか。
大きいとか。
そういう次元ではない。
存在そのものが違う。
光の向こう側。
無限に広がる白銀の海。
その中心で。
巨大な何かが目覚めている。
ゼロが一歩後退る。
初めてだった。
あの虚無の王が。
明確に距離を取った。
『あり得ない』
黄金の瞳が揺れる。
『何故だ』
『何故それが現れる』
世界樹が静かに答えた。
『あなたが忘れたからです』
ゼロが黙る。
世界樹の光がさらに強くなる。
『終わりには始まりが必要』
『虚無には創造が必要』
『消滅には誕生が必要』
世界そのものが共鳴する。
海が揺れる。
大地が鳴る。
空が震える。
そして。
光の奥から。
巨大な爪が現れた。
白銀。
神々しい鱗。
一枚一枚が星空のように輝いている。
続いて翼。
山脈より巨大な翼。
羽ばたくたびに世界が生まれるような光が舞う。
さらに首。
角。
牙。
瞳。
その全てが姿を現していく。
リリアがここにいたなら。
きっと泣いていた。
恐怖ではない。
あまりにも美しかったから。
世界樹が呟く。
『始原竜アルファ』
シモンの身体が震える。
契約紋が燃えている。
召喚士としての本能が理解していた。
この存在は。
フェンより古い。
ノアより古い。
イグニスより古い。
守護者が生まれる前から存在していた。
世界最初の生命。
世界樹が芽吹いた時。
共に生まれた存在。
世界の始まりそのもの。
それがアルファだった。
『■■■■■■』
竜が鳴く。
声ではない。
世界そのものが鳴動する。
その瞬間。
虚無が押し返された。
終末の門が軋む。
侵食された世界樹の根から黒い霧が剥がれていく。
ゼロの表情が険しくなる。
『なるほど』
初めてだった。
虚無の王が戦闘態勢に入ったのは。
『それが最後の切り札か』
アーサーが笑う。
百年ぶりに。
本当に楽しそうだった。
『ようやく本気になるんだな』
ゼロは答えない。
代わりに。
虚無の心臓が脈打った。
ドクン。
世界が崩れる。
ドクン。
終末の門がさらに開く。
ドクン。
無限の虚無が流れ込む。
そして。
ゼロの背後に。
無数の影が現れ始めた。
一体や二体ではない。
千。
万。
億。
世界を滅ぼした歴代の災厄。
喰われた文明。
消えた世界。
その全ての残骸。
虚無喰らいが積み重ねてきた終焉の歴史。
『来い』
ゼロが両手を広げる。
『最後の戦いだ』
その瞬間。
始原竜アルファが翼を広げた。
白銀の光が世界を覆う。
フェンの風。
ノアの海。
イグニスの炎。
世界樹の生命。
攻略組の願い。
終焉の王の執念。
百年間積み重ねられた全てが。
アルファへ流れ込む。
シモンはその中心に立っていた。
召喚士として。
最後の契約者として。
蒼雷を握る。
百年前。
終わらなかったレイド。
百年間。
終われなかった戦い。
そして。
世界の始まりと終わりが激突する。
次の瞬間。
始原竜アルファと虚無の王ゼロが同時に動いた。
世界誕生以来。
最大の戦いが始まった。




