第五十五話 攻略組、再集結
ゴキィィィィィィッ――!!
巨大結晶に走った亀裂が一気に広がる。
世界が揺れた。
虚無喰らいが咆哮する。
『やめろ』
『やめろ』
『やめろ』
初めてだった。
虚無喰らいがここまで取り乱したのは。
百年間。
誰も届かなかった。
誰も壊せなかった。
最深部。
魂の牢獄。
その中心が崩れ始めている。
カインが笑う。
巨大結晶の中で。
黄金の光に包まれながら。
百年前と変わらない穏やかな笑顔だった。
『シモン』
『覚えているか』
シモンは頷く。
忘れるはずがない。
攻略組副団長。
ランキング二位。
そして。
誰よりも面倒見が良かった男。
レイド中。
誰かがミスをする。
アーサーが怒る。
レオンが頭を抱える。
そんな時。
いつも間に入ったのがカインだった。
『全員生還』
カインが呟く。
『お前が一番うるさかった言葉だ』
ヴァルクが吹き出す。
エリオスも笑う。
「確かに」
「うるさかった」
「毎回言ってた」
シモンが顔をしかめる。
「そんな言ってたか?」
「言ってた」
「言ってたな」
即答だった。
その瞬間。
結晶がさらに砕ける。
パキパキパキパキッ!!
黄金の光が溢れ出す。
そして。
周囲の結晶群も反応した。
一つ。
また一つ。
光が灯る。
眠っていた魂たちが目を覚ます。
『……副団長』
『カイン……?』
『生きてたのか……』
『誰か来たのか……?』
無数の声。
百年。
閉じ込められていた仲間たち。
忘れられた者たち。
それでも。
まだ魂は消えていなかった。
虚無喰らいが絶叫する。
『黙れ!!』
黒い鎖が伸びる。
数千。
数万。
無数の鎖。
結晶群へ突き刺さる。
光が消え始める。
だが。
カインが剣を抜いた。
百年前の愛剣。
《アルディオン》。
黄金の刃。
攻略組最強の防衛騎士。
その象徴。
『させるか』
剣が振られる。
黄金の光が空を切り裂く。
ドォォォォォォォォォォン!!
黒い鎖が吹き飛ぶ。
世界が揺れる。
ヴァルクが目を見開く。
「おい」
エリオスも絶句していた。
「相変わらず化け物だな」
カインは笑った。
『百年分だ』
『少しは強くなる』
その言葉に。
シモンは嫌な予感を覚える。
強くなった。
それは事実だろう。
だが。
代償もある。
カインの身体が透けていた。
少しずつ。
少しずつ。
消えている。
世界樹も気付いていた。
『契約者』
声が重い。
『急いでください』
『彼は限界です』
シモンの表情が変わる。
カインは百年間。
この場所で耐え続けた。
核の中心で。
虚無喰らいの圧力を受けながら。
今立っていること自体が奇跡だった。
だが。
黒いアーサーは待たない。
『排除』
巨大な剣が持ち上がる。
無数の剣群。
数千の斬撃。
空間そのものを切り裂く必殺の嵐。
百年前。
誰も超えられなかった壁。
その再現。
ヴァルクが歯を食いしばる。
エリオスも双剣を構える。
だが。
間に合わない。
その時だった。
結晶群の中から声が響く。
『おい』
一人。
『まさか』
また一人。
『攻略組か?』
『本当に?』
『シモン?』
『ヴァルク?』
『エリオス?』
光が増える。
一つ。
また一つ。
百。
二百。
無数の魂。
そして。
その中の一人が笑った。
『なら』
黄金の光が広がる。
『手を貸してやるよ』
次の瞬間。
結晶が砕ける。
一人の男が飛び出した。
大盾使い。
ランキング十五位。
攻略組最強のタンク。
ガルド。
「遅ぇぞ馬鹿共!!」
豪快な声が響く。
続いて。
もう一つの結晶が砕ける。
魔法陣。
銀髪の少女。
ランキング九位。
大魔導士ミリア。
「本当に遅いです」
涙目だった。
だが笑っていた。
さらに。
次々と結晶が砕ける。
ランキング十三位。
ランキング十八位。
ランキング二十一位。
百年前の攻略組。
最終レイドで消えた仲間たち。
その魂が。
百年越しに目覚め始める。
シモンは言葉を失った。
ヴァルクも。
エリオスも。
ただ見ていた。
消えたと思っていた仲間たち。
もう会えないと思っていた仲間たち。
その全員が。
今。
目の前にいる。
そして。
カインが笑う。
百年前と同じ。
優しい笑顔で。
『さて』
黄金の剣を構える。
『百年遅れのレイドだ』
その言葉に。
目覚めた攻略組全員が笑った。
黒いアーサーが剣を構える。
虚無喰らいが咆哮する。
だが。
もう違う。
シモンは一人じゃない。
ヴァルクも。
エリオスも。
そしてカインも。
百年前の攻略組が。
ついに再集結したのだから。




