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第五十三話 攻略組副団長

巨大な結晶が脈打っていた。

ドクン。

ドクン。

ドクン。

まるで心臓だ。

二百七十四人の魂。

百年間囚われた仲間たち。

その全てを束ねる中心。

最深部。

そこに一人の男が眠っている。

シモンは動けなかった。

ヴァルクも。

エリオスも。

言葉を失っていた。

知っている。

忘れるはずがない。

百年前。

攻略組副団長。

ランキング二位。

レオンと並ぶ最前線。

誰よりも冷静で。

誰よりも頼りになって。

誰よりも仲間を守った男。

「……カイン」

シモンが呟く。

巨大結晶の中。

銀髪の男が静かに目を閉じていた。

鎧はボロボロだった。

だが。

姿は百年前のまま。

時間だけが止まったように。

眠っている。

ヴァルクが乾いた笑いを漏らす。

「嘘だろ……」

エリオスも目を見開いていた。

「生きてたのかよ」

世界樹が静かに答える。

『生きているわけではありません』

『死んでもいません』

『百年間』

『最も深い場所で耐え続けました』

空気が重くなる。

最も深い場所。

つまり。

誰よりも長く。

誰よりも近く。

虚無喰らいと向き合っていたということだ。

その時だった。

巨大結晶の奥。

閉じられていた瞳がゆっくり開く。

黄金色。

百年前と同じ目だった。

『……シモン?』

小さな声。

掠れている。

だが。

確かに本人だった。

シモンの喉が詰まる。

「よう」

それしか言えなかった。

カインはしばらく呆然としていた。

そして。

小さく笑った。

『そうか』

『来たのか』

その笑顔は。

百年前のままだった。

安心したような。

肩の荷が下りたような笑顔。

だが。

次の瞬間。

結晶全体が激しく脈打った。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ――

虚無喰らいが怒っている。

無数の瞳が開く。

『黙れ』

『喋るな』

『目覚めるな』

『貴様は我の核だ』

世界が揺れる。

結晶へ黒い鎖が絡みつく。

カインの身体を貫く。

ヴァルクの表情が消えた。

エリオスも笑わなくなる。

酷すぎた。

あまりにも。

百年間。

この男は。

ずっとこれを受け続けていた。

カインが苦しそうに息を吐く。

それでも。

笑った。

『相変わらず』

『遅いな』

シモンが吹き出す。

ヴァルクも笑う。

エリオスも笑った。

攻略組だった。

百年経っても。

最初に出る言葉がそれだった。

『レオンは?』

カインが聞く。

「生きてる」

『そうか』

『フェンは?』

「いる」

『アーサーは』

「いる」

『終焉の王は』

「味方だ」

数秒。

沈黙。

そして。

カインが思い切り吹き出した。

『何だそれ』

『意味が分からん』

久しぶりだった。

百年ぶりに。

心から笑った。

そんな顔だった。

しかし。

その笑顔は長く続かなかった。

巨大結晶の奥。

さらに深く。

さらに暗い場所。

そこから何かが現れる。

シモンの表情が変わる。

ヴァルクも。

エリオスも。

笑顔が消える。

巨大な影。

黒い鎧。

漆黒の剣。

そして。

無数の侵食を纏う人型。

世界樹の声が震えた。

『契約者』

『気を付けてください』

緑の光が揺れる。

『あれが』

『虚無喰らいが作り上げた最強の守護個体です』

影が前へ出る。

顔が見える。

その瞬間。

シモン達の血の気が引いた。

知っていた。

絶対に忘れない。

百年前。

最終レイドで最後に突撃した男。

ランキング一位。

世界最強。

攻略組団長。

アーサー。

その姿をした怪物が。

巨大結晶の前へ静かに立っていた。

だが。

王座の間にいるアーサーとは違う。

こちらは百年前のアーサー。

虚無喰らいが記憶から作り上げた、

最悪の守護者だった。

そして怪物は剣を構える。

『排除対象確認』

低い声が響く。

『攻略組』

『殲滅を開始する』

百年前。

誰も勝てなかった存在が。

今度は敵として立ちはだかった。

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