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第四十九話 失われた仲間たち

パキパキパキッ――

黒い結晶に亀裂が広がる。

青い雷光が内部へ流れ込む。

アビスドラゴンが苦しそうに絶叫した。

大地が震える。

空が揺れる。

草原を覆っていた黒い空に裂け目が走った。

そして。

シモンは見た。

結晶の奥。

閉じ込められた人影を。

鎧姿。

長剣。

見覚えのあるギルドエンブレム。

攻略組。

間違いない。

さらに。

胸元に刻まれたプレート。

《ランキング12位 エリオス》

シモンの瞳が大きく開く。

「エリオス……!?」

ヴァルクも固まった。

空中で目を見開く。

「おいおい……」

掠れた声が漏れる。

「嘘だろ……」

エリオス。

百年前。

攻略組の中でも有名だった男だ。

ランキング十二位。

双剣使い。

そして。

攻略組きってのトラブルメーカー。

ヴァルクが脳筋なら。

エリオスは悪ガキだった。

レイド中に余計なスイッチを押す。

罠へ突っ込む。

宝箱を見つけたら開ける。

説明を聞かない。

レオンを怒らせる。

そして毎回。

シモンとヴァルクが巻き込まれる。

そんな男だった。

だが。

強かった。

圧倒的に。

最前線を走り続けた。

何度も命を救われた。

仲間だった。

「なんで……」

シモンが呟く。

世界樹が答えた。

『虚無喰らいは捨てません』

緑の光が揺れる。

『強い魂ほど』

『深く保存します』

空気が重くなる。

保存。

そんな言葉で片付けていい話じゃない。

百年間。

仲間達は生きたまま閉じ込められていた。

死ぬことも許されず。

忘れ去られ。

苦しみ続けていた。

『助けて』

小さな声。

エリオスだった。

結晶の奥。

苦しそうにこちらを見ている。

『シモン……』

百年ぶりの声。

シモンは歯を食いしばる。

蒼雷を握る手へ力が入った。

「ふざけんな」

虚無喰らいへの怒りだった。

今までで一番。

強い怒りだった。

その瞬間。

アビスドラゴンが暴れた。

ゴォォォォォォォォォォッ!!

黒い炎が爆発する。

巨大な翼が振るわれる。

シモンは吹き飛ばされる。

ヴァルクも地面へ叩き落とされた。

轟音。

衝撃。

草原が砕ける。

結晶の亀裂が少しだけ閉じ始める。

『返せ』

虚無喰らいの声。

『それは我のもの』

『我が集めたもの』

『我が喰らったもの』

『返せ』

無数の声が重なる。

空がさらに黒く染まる。

アビスドラゴンの身体が膨張する。

胸の結晶から黒い液体が流れ込む。

傷が塞がる。

鱗が再生する。

さらに大きくなる。

「最悪だな」

ヴァルクが立ち上がる。

口元の血を拭う。

「エリオスまでいるとは思わなかった」

シモンも立ち上がる。

「他にもいるかもしれない」

沈黙。

その可能性は高い。

百年前の最終レイド。

行方不明になったプレイヤーは大勢いた。

もし。

その全員が。

この中にいるなら。

ヴァルクが空を見上げる。

黒い結晶。

その奥。

エリオスの姿。

そして。

さらにその向こう。

無数の光。

人影。

数え切れない。

何十人。

いや。

もっとだ。

攻略組だけじゃない。

最終レイド参加者達。

消えた仲間達。

全員が。

虚無喰らいの中にいる。

「なるほどな」

ヴァルクが苦笑した。

「だから終焉の王も諦めきれなかったわけだ」

シモンは黙る。

レオン。

フェン。

終焉の王。

アーサー。

皆どこかで気付いていたのかもしれない。

完全には終わっていないと。

まだ救えるかもしれないと。

その時だった。

エリオスが叫ぶ。

『逃げろ!!』

結晶の中から。

突然。

絶叫が響いた。

『シモン!!』

『下がれ!!』

シモンの表情が変わる。

次の瞬間。

結晶が大きく脈打った。

ドクン。

ドクン。

ドクン。

嫌な音。

世界樹が叫ぶ。

『契約者!!』

『離れてください!!』

遅かった。

結晶が砕ける。

そして。

その中から。

もう一体の怪物が現れた。

黒い鎧。

二本の剣。

漆黒の翼。

だが。

その顔だけは。

シモンもヴァルクも知っていた。

エリオスだった。

いや。

エリオスの成れの果てだった。

『シモン』

怪物が笑う。

苦しそうに。

泣きそうに。

『悪い』

双剣が持ち上がる。

『身体が言うこと聞かねぇ』

黒い魔力が爆発する。

アビスドラゴン。

そしてエリオス。

二体同時。

虚無喰らいは。

シモン達へ攻略組の仲間をぶつけてきた。

百年前。

共に戦った仲間を。

今度は敵として。

立ちはだからせようとしていた。

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