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第四話 冒険者の町アルト

町が見えたのは翌日の昼だった。

昨夜は結局、野営になった。

盗賊たちを縛ったまま街道脇で休み、夜明けと同時に再出発。

おかげで盗賊たちからは散々文句を言われたが、知ったことではない。

逃がすつもりもなかった。

「見えました!」

隣を歩いていたリリアが声を弾ませる。

怪我もだいぶ良くなったらしく、昨日より足取りは軽い。

指差した先を見る。

森を抜けた向こう。

なだらかな丘の先に、高い石壁がそびえ立っていた。

見張り台。

巨大な門。

城壁の上を巡回する兵士たち。

遠目にも分かるほど大きな都市だった。

「アルトです!」

リリアが嬉しそうに笑う。

その顔を見ていると、本当に帰って来たのだと分かる。

遺跡ではずっと張り詰めていた。

盗賊団に襲われた時もそうだった。

だが今は違う。

年相応の少女の顔をしている。

「そんなに嬉しいか」

「嬉しいですよ」

リリアは即答した。

「だって生きて帰れましたから」

その言葉に少しだけ考える。

確かにそうだ。

リリアからすれば死にかけた遺跡探索だった。

無事に帰って来られたのは幸運と言える。

「それに」

リリアは少し照れたように笑う。

「ギルドのみんな、絶対心配してますし」

どうやら本当に愛されているらしい。

俺は苦笑した。

無茶をする癖はあるが、人に好かれる性格なのだろう。

その時だった。

俺の視線が城門の上へ向く。

刻まれた文字。

アルト。

その名前に覚えがあった。

町の名前ではない。

人の名前だ。

ランキング二十三位。

重戦士。

巨大盾使い。

攻略組の古参プレイヤー。

プレイヤーネーム――アルト。

なぜ町の名前になっている。

偶然か。

それとも。

胸の奥に小さな違和感が生まれる。

だが今は考えても仕方ない。

情報が足りなかった。

まずは今の世界を知ること。

それが先だ。

俺はアルトの城門を見上げながら、小さく息を吐いた。

まずは今の世界を知ることが先だ。

門へ近付くと、見張りの兵士たちがこちらへ視線を向けた。

そして。

「リリア!?」

一人の門番が驚いた声を上げる。

「無事だったのか!」

「生きてたのかよ!」

どうやら顔見知りらしい。

しかも相当心配されていたようだ。

リリアは困ったように笑った。

「ご心配おかけしました」

「全くだ!」

門番が額を押さえる。

「また無茶したんだろ!」

「うっ……」

否定しない。

どうやら図星らしい。

俺は少し納得した。

この数日だけでも分かる。

リリアは行動力がある。

言い換えれば無茶をするタイプだ。

その時。

門番たちの視線が俺へ向いた。

「そちらは?」

警戒している。

当然だった。

見知らぬ男。

古びた謎の装備。

しかもリリアと一緒にいる。

怪しさしかない。

「旅人だ」

我ながら怪しい説明だった。

門番も同じことを思ったらしい。

露骨に疑いの目を向けてくる。

その時。

後ろで縛られている盗賊たちが目に入った。

「待て」

門番の顔色が変わる。

「それ、黒牙盗賊団か?」

「はい」

リリアが答えた。

「捕まえました」

「誰が?」

「シモンさんです」

沈黙。

門番たちが一斉に俺を見る。

信じていない。

無理もない。

新人冒険者と旅人が、有名盗賊団を壊滅させたなど普通はあり得ない。

「……とりあえずギルドへ来てもらう」

結局そうなった。

俺としても都合が良い。

情報が欲しかった。

今の世界を知るためには冒険者ギルドが最適だろう。

アルト冒険者ギルド。

扉を開いた瞬間、懐かしい空気が流れてきた。

酒の匂い。

焼いた肉の香り。

依頼書が貼られた掲示板。

武器の手入れをする戦士たち。

談笑する冒険者たち。

かつて俺が知っていたプレイヤーギルドとは違う。

だが不思議と似ていた。

どの時代でも。

戦う者たちの集まる場所は変わらないらしい。

「リリア!」

受付嬢が立ち上がる。

「本当に無事だったの!?」

「はい!」

「心配したんだから!」

どうやらこちらでも同じ扱いだった。

リリアが苦笑する。

慣れているらしい。

その時。

ギルド内が静かになった。

視線が集まる。

俺へ。

噂は既に届いているのだろう。

黒牙盗賊団。

謎の旅人。

興味を持たない方がおかしい。

そして、その時だった。

奥の扉が開いた。

大男が姿を現す。

身長は二メートル近い。

全身が筋肉の塊だった。

背中には巨大な戦斧。

歩くだけで床が軋みそうな迫力がある。

その姿を見て、ふとアルトを思い出した。

巨大な盾を背負いながら最前線に立ち続けた男。

体格も雰囲気もどこか似ている。

もちろん別人だろう。

だが偶然にしては出来すぎている気がした。

「お前か」

低い声が響いた。

「盗賊を倒したってのは」


「そうだ」

俺は頷く。

大男は俺をじっと見つめた。

獲物を観察する獣のような目だ。

「俺はガルド」

「シモンだ」

「旅人らしいな」

「そんなところだ」

ガルドは鼻で笑う。

全く信じていない顔だった。

まあ当然だろう。

俺も全部話すつもりはない。

「盗賊は何人だった」

「十二人」

「一人でやったのか」

「リリアは怪我人だったからな」

ギルド内がざわつく。

冒険者たちが顔を見合わせていた。

ガルドはしばらく黙り込む。

やがて口元を歪めた。

「面白い」

嫌な予感がした。

百年前にも何度か経験した流れだ。

強い奴ほど試したがる。

そして大抵の場合。

「模擬戦だ」

やっぱり。

リリアが青ざめる。

「ギルド長!?」

「黙って見てろ」

ガルドは戦斧を肩へ担ぐ。

周囲の冒険者たちも盛り上がり始めた。

どうやら恒例行事らしい。

俺は小さくため息を吐いた。

面倒だ。

だが悪い話でもない。

今の世界の実力水準を知るにはちょうどいい。

「いいぞ」

俺が答えた瞬間。

ギルド中から歓声が上がった。

十分後。

訓練場には百人近い観客が集まっていた。

完全に見世物である。

ガルドが戦斧を構える。

「本気で来い」

俺は周囲を見回した。

武器がない。

仕方なく訓練用の木剣を一本借りる。

それを見た観客たちが笑った。

「終わったな」

「舐めてるぞ」

「ギルド長相手に木剣かよ」

リリアだけが冷や汗を流している。

昨日の戦いを見ているからだろう。

開始の合図が鳴る。

次の瞬間。

ガルドが地面を蹴った。

轟音。

土が弾け飛ぶ。

確かに速い。

普通の人間なら反応できないだろう。

周囲の冒険者たちも息を呑んでいる。

おそらくアルトでは最上位の実力者なのだ。

だが。

俺の目には違って見えた。

戦斧の軌道。

踏み込み。

体重移動。

全てが見える。

避けられる。

対応できる。

身体がそう判断していた。

(なんだ……?)

違和感があった。

ガルドが弱いとは思わない。

むしろ強い。

少なくとも今まで出会った誰よりも強い。

だが。

俺が知っている強者とは何かが違う。

上手く言葉にできない。

俺は半歩だけ横へ動いた。

戦斧が空を切る。

ガルドの目が見開かれる。

観客席からどよめきが上がった。

その瞬間。

俺は初めて理解した。

問題はガルドではない。

俺の方だ。

俺が知っている常識と、この世界の常識が噛み合っていない。

その事実だけが妙に不気味だった。

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