第四十七話 攻略組の悪友
黒い軍勢が押し寄せる。
地平線の果てまで埋め尽くすほどの数。
獣。
騎士。
竜。
魔人。
百年間。
ヴァルクの魂へ食らいつき続けた侵食の残滓。
その全てが牙を剥いていた。
「相変わらずだな」
シモンが笑う。
蒼雷を肩へ担ぐ。
「お前のレイドは雑魚が多い」
「ボス戦前のお約束だからな」
ヴァルクも笑う。
次の瞬間。
二人同時に地面を蹴った。
ドォォォォォン!!
草原が吹き飛ぶ。
黒い軍勢へ突撃する。
百年前。
何度も見た光景だった。
シモンが左を駆ける。
ヴァルクが右を駆ける。
一瞬で最前列へ到達。
蒼雷が閃く。
青い雷光。
横薙ぎ。
十数体がまとめて吹き飛ぶ。
さらに踏み込む。
返す刀。
斜めに斬る。
黒い魔物が崩壊する。
だが。
数が多い。
次から次へと現れる。
その時。
ヴァルクが笑った。
「どけぇぇぇぇぇ!!」
大剣が振り下ろされる。
轟音。
大地が割れた。
前方百メートル。
まとめて消し飛ぶ。
リリアが見たら絶対に叫ぶだろう。
攻略組ランキング七位。
脳筋代表。
前衛特化。
それがヴァルクだった。
「相変わらず雑だな」
「効率重視だ」
「絶対違う」
「細かいことは気にするな」
百年前と変わらない。
本当に。
何も変わらない。
だが。
シモンは気付いていた。
ヴァルクの息が少し荒い。
大剣を振るう度。
身体が僅かに透けている。
魂が削られている。
残された時間は少ない。
ヴァルク自身も分かっていた。
だから。
誰よりも前へ出る。
昔からそうだった。
その時だった。
黒い空が裂ける。
巨大な影が降ってきた。
竜。
いや。
もっと大きい。
漆黒の鱗。
六枚の翼。
黄金の瞳。
その姿を見た瞬間。
シモンの表情が変わった。
「おい」
ヴァルクも顔をしかめる。
「ああ」
知っていた。
百年前。
最終レイド直前。
攻略組が全滅しかけた原因。
《アビスドラゴン》
終焉の王軍最上位個体。
当時ですら討伐に数百人必要だった怪物。
それが。
空から降ってきた。
『■■■■■■■■』
咆哮。
空間が震える。
草原が吹き飛ぶ。
侵食の軍勢すら消し飛ぶ。
圧倒的。
まさに災害だった。
「おいおい」
ヴァルクが笑う。
「俺の魂の中、豪華すぎねぇか?」
「百年間熟成された結果だろ」
「嫌な熟成だな」
だが。
笑いながらも二人の目は真剣だった。
強い。
本物だ。
ヴァルクの魂を守る最後の門番。
そう考えた方が自然だった。
アビスドラゴンが翼を広げる。
黒いブレスが集まる。
空間が歪む。
吐かれる。
次の瞬間。
世界が黒く染まった。
ドォォォォォォォォォォン!!
消滅の奔流。
触れたものを存在ごと削る黒い炎。
草原が消える。
空が削れる。
初心者エリアだった景色が一瞬で消し飛んだ。
シモンとヴァルクは左右へ飛ぶ。
地面を転がる。
直後。
爆発。
衝撃波。
視界が揺れる。
「昔より強くなってねぇか!?」
シモンが叫ぶ。
「百年分だろ!!」
ヴァルクも叫び返す。
二人とも笑っていた。
こんな状況なのに。
百年前と変わらない。
理不尽な敵。
無茶な攻略。
だから燃える。
そういう馬鹿だった。
その時。
シモンの脳裏へ記憶が蘇る。
百年前。
攻略会議。
アビスドラゴン討伐戦。
レオンが説明していた。
弱点。
行動パターン。
ブレス周期。
全て。
その時。
ヴァルクは寝ていた。
説明終了後。
レオンが聞く。
「理解したか」
ヴァルクは答えた。
「ドラゴンを殴ればいい」
レオンが机を叩き壊した。
思い出した瞬間。
シモンは吹き出した。
「何だよ」
「お前レイド説明聞いてなかっただろ」
「あ?」
「アビスドラゴン戦」
ヴァルクが数秒考える。
そして。
真顔で言った。
「聞いてない」
「だろうな!」
二人は笑った。
その瞬間だった。
アビスドラゴンが再び咆哮する。
そして。
その胸の奥。
黒い結晶が見えた。
ドクン。
ドクン。
脈打っている。
世界樹の声が響く。
『契約者』
『あれです』
シモンの目が細くなる。
『あの結晶がヴァルクを縛る鎖の一つ』
『破壊してください』
蒼雷が青く輝く。
ヴァルクも大剣を構える。
百年前。
何度もやった。
レイドボス。
ギミック解除。
弱点破壊。
そして。
総攻撃。
二人は同時に笑った。
「行くぞ」
「ああ」
百年前の攻略組。
最前線を駆けた悪友たちが。
再び並んで走り出した。




