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第四十一話 核への道

虚無喰らいが咆哮した。

世界が震える。

空が裂ける。

終末の門の周囲で空間そのものが崩壊し始める。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ――

王座の間の床が砕けた。

黒霧城の塔が崩れる。

遠くの山脈が消える。

削り取られる。

まるで世界が食べられているようだった。

『契約者を渡せ』

虚無喰らいの無数の瞳がシモンを見た。

赤い瞳。

青い瞳。

黄金の瞳。

その全てが執着している。

世界樹の種へ。

最後の希望へ。

最後の生命へ。

『渡せ』

『渡せ』

『渡せ』

無数の声が重なる。

頭が割れそうだった。

リリアが耳を押さえる。

「うぅ……」

立っているだけで精一杯だった。

それでも。

前を見る。

シモンの背中を見る。

逃げなかった。

百年前の英雄たちに混じれば、自分など小石ほどの存在だ。

それでも。

ここにいる意味がある。

そう信じたかった。

その時。

終焉の王が前へ出た。

黒いマントが揺れる。

終焉の剣がゆっくり持ち上がる。

『核へ向かえ』

低い声だった。

シモンが見る。

終焉の王は虚無喰らいを見ていた。

『奴は我らが止める』

『お前は世界樹を連れて行け』

シモンは眉をひそめる。

「お前はどうする」

黒い瞳が揺れた。

ほんの僅かに。

『百年も戦えば十分だ』

自嘲気味な声だった。

『最後くらいは守る側に立つ』

レオンが息を呑む。

アーサーも黙る。

誰よりも長く終焉の王を見てきた二人だった。

だから分かった。

覚悟している。

消える覚悟を。

『馬鹿野郎』

シモンが言った。

終焉の王が振り返る。

『何だ』

「レイドは全員生還が基本だろ」

沈黙。

レオンが吹き出した。

アーサーが額を押さえる。

フェンが苦笑する。

ノアも微笑む。

イグニスは大笑いした。

『がははははははっ!!』

終焉の王だけが固まっていた。

百年前。

何度も聞いた言葉。

無茶な攻略。

絶望的なボス戦。

その度に言っていた男がいた。

目の前の召喚士だ。

『変わらんな』

終焉の王が呟く。

「お互い様だ」

シモンは笑った。

その時だった。

世界樹の光が広がる。

緑色の粒子が舞う。

王座の間の中央。

虚無喰らいの身体の奥。

肉塊のさらに深部。

そこへ向かう一本の光の道が現れた。

『あれが核への道です』

世界樹の声が響く。

全員の視線が集まる。

巨大な肉塊の中心。

脈打つ闇。

心臓のような何か。

それが見えた。

ドクン。

ドクン。

ドクン。

世界そのものが脈打っているような音。

リリアが青ざめる。

「気持ち悪い……」

本音だった。

巨大な心臓。

無数の血管。

世界サイズの怪物の体内。

そんなものを見て気持ち悪くならない方がおかしい。

『契約者』

世界樹が言う。

『あれが虚無喰らいの核』

『あれを浄化しなければ世界は終わります』

シモンが蒼雷を握る。

青い雷光が走る。

百年前。

最終レイド。

何度もこんな状況があった。

ボスの核。

弱点。

攻略法。

違うのは。

今回は本当に世界が懸かっていることだけだ。

『主』

フェンが並ぶ。

巨大な銀狼の身体が風を纏う。

『最後まで共に』

『当たり前だ』

ノアが微笑む。

『私もおります』

イグニスが拳を鳴らす。

『ここまで来て置いてくなよ』

レオンが剣を抜く。

アーサーも並ぶ。

そして。

「わ、私も行きます!」

リリアだった。

全員が振り返る。

少しだけ怖くなった。

だが引かない。

リリアは胸を張る。

「シモンさん一人じゃ危ないです」

「危ないのはお前だ」

「それでもです」

頬を膨らませる。

少し涙目だった。

でも。

目だけは真っ直ぐだった。

シモンは数秒黙った。

そして笑う。

「好きにしろ」

「はい!」

ぱっと表情が明るくなる。

その顔を見て。

フェンが少しだけ笑った。

『主』

『似ていますね』

「誰にだ」

『昔のあなたに』

シモンは苦い顔になる。

レオンが吹き出した。

アーサーまで笑う。

リリアだけが首を傾げていた。

意味が分からないらしい。

その時。

虚無喰らいが再び咆哮する。

世界が揺れる。

終末の門がさらに開く。

終焉の王が剣を構えた。

黒い霧が空を覆う。

『行け』

短い言葉だった。

だが。

十分だった。

シモンは前を見る。

虚無喰らいの核。

世界の運命。

百年前に終わらなかったレイド。

その全てが待っている。

蒼雷が青く輝く。

世界樹の光が呼応する。

そして。

シモンは走り出した。

最後の攻略戦が。

ついに始まった。

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