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第三十九話 守護者の覚醒

世界樹の光が天を貫いていた。

緑の光柱。

それは単なる魔力ではない。

生命そのものだった。

百年間失われていた世界の鼓動。

止まりかけていた血流。

枯れかけていた命。

その全てが今、再び動き始めていた。

ゴォォォォォォォォォォ――

終末の門が揺れる。

虚無喰らいが初めて後退した。

無数の瞳。

無数の口。

無数の腕。

その全てが世界樹の光を見つめている。

『何故だ』

低い声が響く。

『何故まだ残っている』

『何故滅びない』

その声には苛立ちが混じっていた。

いや。

恐怖だった。

世界柱がゆっくりと立ち上がる。

黄金の巨体。

百年間崩れ続けた存在。

その亀裂が少しずつ塞がっていく。

『生命だからだ』

世界柱の声が響く。

『生命は終わる』

『だが』

『次の生命へ繋がる』

黄金の瞳が輝く。

『それがお前には理解できぬ』

虚無喰らいが沈黙する。

次の瞬間。

終末の門の向こうから。

数千本の触手が飛び出した。

世界を埋め尽くす黒い津波。

空が消える。

城が消える。

視界そのものが黒へ染まる。

『喰らう』

『全てを』

『希望も』

『未来も』

『生命も』

王座の間へ迫る。

世界ごと飲み込む勢いだった。

だが。

フェンが前へ出た。

銀狼の身体が光る。

青白い風が吹き荒れる。

毛並みが輝く。

瞳が蒼く燃える。

世界樹の力が流れ込んでいた。

『主』

フェンが振り返る。

百年前。

何度も見た顔だった。

『少しだけ』

『本気を出します』

その瞬間だった。

風が消えた。

静寂。

世界が止まったような感覚。

リリアが目を見開く。

「え……?」

何もない。

風が止まった。

そう思った。

だが違った。

次の瞬間。

ドォォォォォォォォン!!

空が吹き飛んだ。

暴風。

いや。

天災だった。

フェンの周囲から放たれた風圧だけで。

虚無喰らいの触手が数百本まとめて消し飛ぶ。

王座の間の天井が崩壊する。

黒霧城の上空に巨大な穴が開く。

リリアがぽかんと口を開ける。

「……フェンさん?」

思わず呟く。

「こんなに強かったんですか?」

アーサーが苦笑した。

「いや」

「まだだ」

リリアが固まる。

まだ?

今ので?

だが。

アーサーは知っていた。

百年前。

最後のレイド。

誰よりも近くで見ていた。

守護者の本当の力を。

フェンは牙を剥く。

銀色の毛並みがさらに輝く。

その背後に巨大な狼の幻影が現れる。

雲を突き抜けるほど巨大な狼。

神話そのもの。

風の守護神。

その真の姿だった。

『天狼王』

低い声が響く。

その瞬間。

世界中の風がフェンへ集まった。

虚無喰らいの瞳が揺れる。

初めて。

明確な警戒を見せた。

そして。

ノアも前へ出る。

蒼い髪がふわりと揺れる。

優しい微笑み。

だが。

その瞳は真剣だった。

『私も少し本気を出しましょう』

静かな声。

その瞬間。

世界が水に包まれた。

リリアが目を見開く。

海だった。

王座の間ではない。

黒霧城ですらない。

世界そのものが海へ沈んだような錯覚。

深海。

深淵。

生命の始まり。

全ての命の故郷。

それがノアだった。

『生命は海から生まれます』

蒼い瞳が輝く。

『だから』

『私は生命を守る』

巨大な波が生まれる。

大陸を飲み込むほどの津波。

虚無喰らいへ向かって落ちる。

触れた部分が崩壊した。

初めてだった。

虚無喰らいが傷付いた。

『不可能だ』

無数の瞳が揺れる。

『何故だ』

『何故まだ抗う』

そして。

最後に。

イグニスが笑った。

豪快に。

心底楽しそうに。

『がははははははは!!』

紅蓮の炎が爆発する。

太陽。

恒星。

いや。

それ以上。

空間そのものが燃え始める。

王座の間の温度が跳ね上がる。

リリアが飛び跳ねた。

「熱い熱い熱いっ!!」

慌てて髪を押さえる。

「今度こそ燃えます!」

「大丈夫だ」

シモンが答える。

「たぶん」

「たぶん!?」

半泣きだった。

そんなリリアを見て。

レオンが吹き出す。

百年ぶりだった。

こんな状況で笑ったのは。

イグニスが巨大な拳を握る。

『久しぶりだな』

黄金の瞳が虚無喰らいを見る。

『全力で殴れる相手は』

次の瞬間。

紅蓮の巨人が現れた。

黒霧城より巨大。

山脈を超えるほど巨大。

炎の神。

それが本来のイグニスだった。

フェン。

ノア。

イグニス。

三柱の守護者。

その真の姿が揃う。

百年前。

誰も見られなかった光景。

そして。

その中央で。

シモンの胸の世界樹がさらに輝く。

ドクン。

ドクン。

ドクン。

世界そのものの鼓動。

その時。

世界樹の声が再び響いた。

『契約者』

優しい声だった。

『次はあなたです』

シモンが顔を上げる。

世界樹が続ける。

『守護者を導き』

『終焉を救い』

『世界を選びなさい』

その言葉と同時に。

終焉の王の黒い瞳が揺れた。

そして。

虚無喰らいの本体が。

ついに終末の門を押し広げながら。

完全に世界へ降り立とうとしていた。


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