表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/49

第三十四話 世界の外側

ゴゴゴゴゴゴゴ……

世界が軋む。

それは音ではなかった。

悲鳴だった。

空間そのものが上げる悲鳴。

終末の門の向こう。

闇より深い闇の奥から何かが近付いてくる。

その気配だけで王座の間が震えていた。

石畳が砕ける。

壁に亀裂が走る。

天井から砂塵が降り注ぐ。

世界柱の黄金の瞳が苦しそうに揺れた。

『来てはならぬものだ』

その声には明確な焦りがあった。

シモンは眉をひそめる。

終焉の王ですら警戒している。

世界柱も怯えている。

ならば相当だ。

「何なんだ」

アーサーが唇を噛む。

珍しく余裕がない。

「俺も直接見たことはない」

その言葉にレオンが顔を上げた。

「お前でもか」

「見た奴はほぼ残ってない」

重い沈黙が落ちる。

終末の門の向こうで。

何か巨大なものが動いた。

その瞬間。

シモンの胸に宿る世界樹の光が脈打つ。

ドクン。

まるで危険を知らせるように。

強く。

激しく。

フェンが低く唸る。

『主』

「ああ」

分かっていた。

来る。

何かが。

今までとは比較にならない存在が。

その時だった。

終焉の王がゆっくり振り返る。

黒い霧が揺れる。

そして。

初めて世界柱ではなく門の奥を見た。

『まだ早い』

低い声だった。

怒りにも似ている。

『目覚めるな』

王座の間が静まり返る。

リリアが目を丸くした。

「え……?」

今。

終焉の王は止めようとした。

あの終焉の王が。

世界を終わらせようとしている存在が。

終末の門の向こうにいる何かを。

止めようとしている。

世界柱が苦しそうに呟く。

『終焉ですら恐れる』

『それが外なる者』

シモンの目が細くなる。

「外なる者?」

世界柱が頷いた。

『世界の外から来る存在』

『世界ではない』

『生命でもない』

『終焉ですらない』

黄金の瞳が暗く沈む。

『何もかもを喰らう虚無』

その瞬間。

終末の門が大きく開いた。

バキバキバキバキッ!!

空間が砕ける。

王座の間の先。

さらにその向こう。

黒霧城の上空。

夜空そのものが割れた。

リリアが悲鳴を上げる。

「空が……!」

本当に割れていた。

まるでガラスだったかのように。

空に無数の亀裂が走る。

その向こう側。

そこには星空がなかった。

宇宙もない。

光もない。

ただ。

黒。

どこまでも続く漆黒。

何も存在しない空間。

そして。

その闇の中で。

巨大な瞳が開いた。

全員が凍り付く。

大きすぎる。

距離感がおかしい。

空そのものが眼球になったような。

そんな巨大さだった。

リリアの膝が崩れる。

「なに……あれ……」

涙が滲む。

怖い。

見ているだけで頭がおかしくなりそうだった。

フェンが前へ出る。

ノアが水を展開する。

イグニスが炎を燃やす。

三柱の守護者が同時に臨戦態勢へ入った。

それほどの相手だった。

『主』

フェンの声が低い。

『目を合わせてはいけません』

「何だあれ」

『分かりません』

フェンが答える。

『ですが』

銀狼の青い瞳が細まる。

『本能が叫んでいます』

『あれは存在してはいけない』

その時。

巨大な瞳が動いた。

ゆっくりと。

本当にゆっくりと。

そして。

シモンを見た。

ドクン。

世界樹の光が爆発する。

王座の間に緑の光が溢れる。

黄金の葉が舞う。

終焉の王が振り返る。

世界柱が目を見開く。

アーサーが叫んだ。

「シモン!!」

だが。

遅かった。

巨大な瞳が開く。

さらに。

さらに大きく。

そして。

声が響いた。

『見つけた』

王座の間が凍り付く。

終焉の王の黒い霧が揺れる。

世界柱の黄金の瞳が震える。

リリアの顔から血の気が引く。

その声は。

頭の中へ直接響いていた。

男でも女でもない。

老人でも子供でもない。

生き物の声ですらない。

理解できない何か。

『最後の種』

シモンの胸の世界樹が脈打つ。

ドクン。

ドクン。

ドクン。

呼応するように。

巨大な瞳が笑った。

その瞬間。

世界柱が叫ぶ。

『逃げろ!!』

初めてだった。

世界そのものを支える存在が。

悲鳴のような声を上げたのは。

だが。

間に合わなかった。

巨大な瞳の奥から。

一本の黒い腕が伸びてくる。

終末の門を突き破り。

世界を裂きながら。

真っ直ぐ。

シモンへ向かって。

そして。

その腕を見た瞬間。

アーサーの顔から血の気が消えた。

「嘘だろ……」

百年前。

誰も辿り着けなかった最終レイド。

運営すら詳細を公開しなかった隠しシナリオ。

その最奥で語られていた存在。

《虚無喰らい》。

本来なら。

絶対に目覚めてはいけなかった災厄が。

ついに世界へ手を伸ばしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ