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第二十三話 百年の答え

終焉の王が右手を掲げる。

その掌の上で、黒い光が脈打っていた。

まるで心臓だ。

ドクン。

ドクン。

鼓動するたびに空間が軋む。

床が割れる。

壁に亀裂が走る。

王座の間そのものが悲鳴を上げていた。

シモンの背筋を冷たいものが走る。

危険だ。

本能が叫んでいる。

百年前。

終焉の王と何度も戦った。

だが、こんな技は見たことがない。

「フェン!」

『分かっています!』

フェンが即座に動く。

銀色の毛並みが逆立ち、周囲へ暴風が広がった。

ノアも前へ出る。

『主を守ります』

蒼い水が渦を巻く。

イグニスが拳を握る。

『派手なのが来るぞ』

炎が爆発する。

守護者たちがシモンの前へ並んだ。

その光景に、リリアは思わず息を呑む。

百年間。

世界を守り続けた存在たち。

その全員が警戒している。

それほどの攻撃。

「ちょ、ちょっと待ってください……」

リリアの声が震える。

「これ、本当に人類が戦っていい相手なんですか……?」

誰も答えない。

答えられない。

多分、人類だけなら無理だ。

百年前も無理だった。

だから攻略組がいた。

だから守護者がいた。

だから今も戦っている。

終焉の王が静かに告げる。

『崩界』

その瞬間だった。

黒い光が解き放たれる。

音はなかった。

爆発もない。

ただ。

世界が消えた。

王座の間の中央。

そこだけがぽっかりと消滅する。

床も。

壁も。

空気さえも。

存在そのものが削り取られていた。

「なっ……」

シモンが目を見開く。

理解できない。

攻撃ではない。

破壊ですらない。

消去。

存在そのものを消している。

『主!』

フェンが飛び出した。

暴風が渦を巻く。

銀色の嵐が黒い光へ激突する。

轟音。

空間がねじれる。

フェンの風が次々と消滅していく。

『ぐっ……!』

初めてだった。

フェンが押される。

百年戦い続けた風狼が。

『ノア!』

『はい!』

蒼い奔流が現れる。

巨大な津波。

城内とは思えない規模だった。

水が黒い光へぶつかる。

蒸発。

消滅。

それでもノアは止まらない。

『海よ』

優しい声が響く。

『私に力を』

蒼い光が強くなる。

波が重なる。

何重にも。

何重にも。

ようやく黒い光が減速した。

だが。

まだ消えない。

「嘘でしょ……」

リリアが青ざめる。

フェンとノア。

二人がかりでも止めきれない。

その事実が恐ろしかった。

その時。

イグニスが笑う。

『だったら三人だろうが』

炎王が踏み込む。

床が爆発する。

拳が振り抜かれた。

紅蓮の炎が巨大な龍となる。

咆哮。

火炎の奔流が黒い光へ激突する。

風。

水。

炎。

三つの力が重なる。

世界を支える守護者たちの力。

その全てがぶつかった。

そして――

ドォォォォォォン!!

王座の間が揺れた。

黒い光が弾け飛ぶ。

衝撃波が城内を駆け抜けた。

リリアは思わずシモンへしがみつく。

「きゃああっ!」

「大丈夫か?」

「全然大丈夫じゃないです!」

涙目だった。

しっかりシモンの腕を掴んでいる。

本人も無意識らしい。

シモンは少し苦笑した。

だが。

安心するには早い。

終焉の王は無傷だった。

まるで当然のように立っている。

黒いローブが揺れる。

空洞の闇がこちらを見ていた。

『なるほど』

低い声が響く。

『百年前より強くなったか』

初めてだった。

終焉の王が評価した。

守護者たちを。

フェンの瞳が細まる。

『貴様に褒められても嬉しくありません』

『そうか』

終焉の王が一歩前へ出る。

その瞬間。

空気が変わった。

重い。

息が苦しい。

リリアは膝をつく。

「うぅ……」

胸が痛い。

立っているだけで辛い。

まるで世界そのものが敵意を向けているようだった。

シモンは気付く。

終焉の王はまだ本気じゃない。

今までの攻撃は試し撃ち。

本番はこれからだ。

レオンも気付いていた。

顔色がさらに悪くなる。

「まずい……」

百年間。

何度も見てきた。

この状態を。

終焉の王が本気を出す前兆。

アーサーが剣を構える。

「来るぞ」

その声と同時。

終焉の王の背後で巨大な門が揺らいだ。

《終末の門》。

黒い扉の向こうから。

何かが近付いてくる。

重い足音。

ドン。

ドン。

ドン。

王座の間が震える。

リリアがシモンの服をぎゅっと掴む。

「な、何か来ます……」

小さな声だった。

本当に怖いのだろう。

だが逃げない。

震えながらも前を見ている。

シモンはそんなリリアの頭を軽く叩いた。

「後ろに下がってろ」

「……はい」

少しだけ安心した顔になる。

その時だった。

終末の門がゆっくりと開く。

闇の向こうから現れた影を見て。

レオンの顔から血の気が引いた。

フェンが唸る。

ノアが息を呑む。

イグニスの笑みが消えた。

そしてシモンも固まる。

そこにいたのは。

百年前。

最終レイドで死んだはずの男だった。

ランキング三位。

聖騎士。

攻略組の柱。

シモンたちの仲間。

――カインだった。

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