第二十一話 守護者たちの戦場
フェンが地面を蹴った。
爆発音。
銀色の巨体が消える。
いや。
速すぎて見えないだけだ。
次の瞬間には骸骨騎士団の中央にいた。
『遅い』
低い声。
前脚が振るわれる。
たったそれだけ。
だが空間そのものが裂けた。
真空の刃。
透明な風の斬撃。
十数体の骸骨騎士がまとめて両断される。
上半身と下半身がずれ落ちる。
黒い霧が噴き出した。
それでも魔物たちは止まらない。
死兵のように剣を構え直す。
フェンの瞳が細まる。
『百年』
静かな声。
その身体から膨大な魔力が溢れ出した。
銀色の毛並みが逆立つ。
王座の間全体を暴風が埋め尽くす。
『私は百年間待った』
轟ッ!!
風が爆発した。
骸骨騎士も。
黒騎士も。
魔獣も。
全てが嵐へ呑まれる。
床が抉れる。
柱が砕ける。
天井に亀裂が走る。
王座の間そのものが悲鳴を上げていた。
一方。
反対側ではノアが静かに目を閉じる。
『荒々しいですね』
微笑みながら両手を広げた。
すると王座の間の床を青い光が走る。
次の瞬間。
巨大な水流が出現した。
まるで海そのものだった。
轟々と唸りながら魔物の群れを飲み込む。
アビス・タイタンほどの巨体ですら足を取られ、流されていく。
『眠りなさい』
ノアが優しく囁く。
その声に呼応するように、水が魔物たちを包み込んだ。
抵抗は意味をなさない。
やがて黒い身体は砕け、霧となって消えていく。
『争いは嫌いなのですが』
少し困ったように笑う。
『主を傷付けるなら話は別です』
その笑顔のまま。
数十体の魔物が消滅した。
リリアが引きつった顔になる。
「笑顔でやることじゃないですよね……?」
『何か言いましたか?』
「いえ何も!」
慌てて首を振る。
怖かった。
優しいのに怖い。
それがノアだった。
そして。
最も派手なのはイグニスだ。
『ははははは!!』
豪快な笑い声が響く。
アビス・タイタンの拳が振り下ろされる。
山が落ちてくるような一撃。
普通なら逃げる。
だがイグニスは違った。
『はっ』
真正面から殴った。
激突。
衝撃波。
王座の間の窓ガラスが全て吹き飛ぶ。
巨人の腕が逆方向へ折れ曲がった。
アビス・タイタンが初めて悲鳴を上げる。
イグニスは笑う。
『その程度か?』
さらに踏み込む。
拳。
拳。
拳。
拳。
一撃ごとに炎が爆発する。
巨人の身体が燃える。
砕ける。
吹き飛ぶ。
最後に放たれた右ストレートが胸部へ直撃した。
轟音。
アビス・タイタンの上半身が消し飛んだ。
リリアは完全に呆然としていた。
「何なんですかあの人たち……」
「守護者だ」
シモンが答える。
「いや意味分かりません」
即答だった。
シモンは少し笑う。
百年前なら自分も同じ反応をしただろう。
だが今は違う。
ようやく理解した。
フェンたちは強い召喚獣だったわけじゃない。
最初から別格だったのだ。
世界を支える柱。
その一角。
だから百年生きた。
だから終焉の王と戦えた。
そして。
だからこそ。
終焉の王は彼らを恐れている。
その時だった。
ドクン――。
黒霧城が脈打つ。
今までよりも大きく。
不気味に。
終焉の王がゆっくりと立ち上がった。
黒いローブが揺れる。
空洞の顔が守護者たちを見渡す。
『なるほど』
その声に空間が軋む。
『やはり厄介だ』
初めてだった。
終焉の王が守護者たちを脅威として認めた。
レオンの顔が険しくなる。
「来るぞ」
その声と同時。
終焉の王の背後に巨大な魔法陣が展開された。
黒い光。
禍々しい紋様。
王座の間の天井を覆うほど巨大だった。
アーサーの表情が変わる。
「まずい」
「何だ?」
シモンが聞く。
アーサーは苦い顔で答えた。
「守護者殺しだ」
空気が凍る。
フェンが顔を上げる。
ノアの笑みが消える。
イグニスも初めて真顔になった。
終焉の王が腕を掲げる。
『百年前』
低い声。
『お前たちは私を封じた』
黒い光が集まる。
『ならば今度はこちらの番だ』
魔法陣が輝く。
王座の間全体が震えた。
シモンの本能が警鐘を鳴らす。
まずい。
あれは受けてはいけない。
だが。
間に合わない。
終焉の王がゆっくりと宣言した。
『終幕を始めよう』
その瞬間。
黒い光が世界を覆った。




