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第十七話 最後の召喚士

王座の間に重い沈黙が落ちていた。

誰も動かない。

誰も声を発しない。

黒い霧がゆっくりと漂う。

終焉の王。

ランキング1位アーサー。

百年前の真実。

守護者。

あまりにも多くの情報が一度に押し寄せていた。

リリアなど完全に処理能力を超えていた。

小さな頭を抱え込み、

「えっと……」

「終焉の王がいて……」

「ランキング1位がいて……」

「フェンさんが神様みたいな存在で……」

そこで止まる。

数秒考える。

そして真顔で言った。

「無理です」

シモンは思わず吹き出した。

レオンも肩を震わせる。

フェンでさえ目を細めていた。

緊張で張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。

だが。

本題はここからだった。

シモンはアーサーを見据える。

「説明しろ」

低い声だった。

「俺にも分かるようにな」

アーサーは静かに頷く。

百年という時間を背負った瞳。

その奥には疲労が見えた。

孤独も見えた。

そして責任も。

「まず一つ」

アーサーが言う。

「お前は勘違いしている」

「何をだ」

「召喚士についてだ」

シモンの眉が動く。

アーサーは続ける。

「召喚士は職業じゃない」

王座の間が静まり返る。

リリアがぽかんと口を開いた。

「え?」

「職業ですよね?」

「ゲームではそうだった」

アーサーは頷く。

「だが本来は違う」

「召喚士というのは資格だ」

「資格?」

シモンが聞く。

アーサーは静かにフェンを見る。

巨大な銀狼。

百年前から変わらぬ相棒。

だが今は違う。

その存在感は城一つを圧倒していた。

銀色の毛並みは月光のように輝き。

青い瞳はどこまでも深い。

その周囲では自然に風が生まれていた。

まるで世界そのものが傅いているかのように。

「守護者と契約する資格」

アーサーが言った。

その瞬間。

フェンの周囲で風が舞った。

柔らかな風。

だがその一粒一粒に莫大な力が宿っている。

リリアが思わず息を呑む。

「きれい……」

自然に漏れた言葉だった。

恐ろしいほど強大なのに。

目を奪われるほど美しい。

フェンは静かに語る。

『私は風の守護者です』

王座の間に風が吹く。

窓一つない空間に。

確かに風が生まれる。

『風が生まれた時から存在し』

『風が消える時まで存在する』

『それが私です』

リリアが固まる。

数秒後。

恐る恐る手を挙げた。

「それって……」

「神様じゃないですか?」

『違います』

即答だった。

「違うんですか!?」

『違います』

「いや絶対そっち側ですよね!?」

リリアが半泣きで叫ぶ。

フェンは本気で首を傾げた。

『?』

「なんで不思議そうなんですか!」

レオンが吹き出した。

アーサーまで笑う。

シモンも額を押さえる。

相変わらずだ。

どんな状況でもリリアはリリアだった。

だが。

その反応のおかげで少し救われる。

話が理解しやすくなる。

アーサーは続ける。

「フェンだけじゃない」

「ノアも」

「イグニスも」

「全員同じだ」

シモンの表情が変わる。

ノア。

海を司る召喚獣。

イグニス。

炎を司る召喚獣。

百年前。

何度も共に戦った仲間。

レイドの最前線を支えた存在。

「待て」

シモンが言う。

「全員守護者なのか」

「そうだ」

アーサーは頷く。

「フェンは風」

「ノアは海」

「イグニスは炎」

「それぞれ世界の根幹を支える柱だ」

世界の柱。

その言葉の重みが伝わる。

リリアが再び手を挙げる。

「質問です」

「どうぞ」

「つまりシモンさんって……」

少し考える。

そして。

「実はとんでもなく凄い人なんじゃないですか?」

沈黙。

シモンが目を逸らす。

レオンが笑う。

フェンは真面目に答えた。

『はい』

「はいじゃないですよ!?」

リリアが叫ぶ。

「もっと早く言ってください!」

「俺も今知った」

シモンが真顔で返す。

「知らなかったんですか!?」

「知らなかった」

「知らないで神様みたいな存在と契約してたんですか!?」

「そうなるな」

リリアは頭を抱えた。

「意味が分かりません……」

小さくうなだれる。

だが。

どこか嬉しそうでもあった。

自分が憧れている相手がとんでもない人物だった。

その事実が少し誇らしかったのかもしれない。

アーサーが静かに言う。

「だが本題はそこじゃない」

空気が変わる。

笑いが消える。

王座の間が再び静まり返った。

「なぜお前だけが守護者と契約できたのか」

シモンの胸がざわつく。

確かにそうだ。

百年前。

召喚士は大勢いた。

だがフェンと契約できたのは自分だけだった。

ノアも。

イグニスも。

全てそうだ。

運が良かっただけだと思っていた。

「偶然じゃないのか」

シモンが呟く。

アーサーは首を振る。

「偶然じゃない」

「最初から決まっていた」

その言葉に。

終焉の王の黒い霧が揺れた。

まるでその真実を知っているかのように。

アーサーはシモンを見つめる。

百年前から変わらぬ顔。

だがその瞳だけは百年の重みを宿していた。

「シモン」

静かな声だった。

「お前はただの召喚士じゃない」

鼓動が鳴る。

一度。

二度。

大きく。

「お前は百年前から」

「守護者を束ねる資格を持つ者だった」

言葉を失う。

守護者を束ねる。

それはつまり。

フェンたちを従えるという意味ではない。

共に世界を支える側に立つということだ。

シモンは拳を握る。

百年前。

自分はランキング二十八位だった。

上位プレイヤーだった。

だが最強ではない。

アーサーには届かなかった。

グレンにも勝てなかった。

レオンの背中を追い続けていた。

だから思っていた。

自分は特別じゃない。

少し運が良かっただけだと。

フェンと契約できたのも。

ノアを見つけたのも。

イグニスに認められたのも。

全部偶然だと思っていた。

だが。

違った。

百年前から。

全てに意味があったというのか。

胸の奥がざわつく。

理解が追いつかない。

受け入れられない。

だが同時に。

妙な納得もあった。

フェンは百年間待っていた。

レオンは百年間戦っていた。

アーサーは百年間世界を支えていた。

まるで。

自分が来ることを知っていたかのように。

シモンは大きく息を吐く。

頭を掻く。

百年前から変わらない癖だった。

「……面倒事ばっかりだな」

レオンが吹き出した。

フェンが目を細める。

リリアがくすっと笑う。

「でも」

リリアは小さく笑った。

「シモンさんなら何とかしそうです」

その笑顔は眩しかった。

不安もある。

怖さもある。

それでも信じている。

そんな笑顔だった。

シモンは少しだけ苦笑する。

そして。

終焉の王を見る。

百年前。

数万人が敗北した災厄。

世界を百年間蝕み続けた怪物。

だが。

もう逃げる気はなかった。

終焉の王の闇の奥で何かが揺れる。

まるで初めて警戒を覚えたかのように。

そしてシモンは静かに呟いた。

「百年前の続きだ」

「今度こそ終わらせる」

その言葉に。

王座の間の空気が大きく震えた。

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