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ゆりかご  作者: 愛カ翠
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70話 ゆりかご

 

 店内に流れる軽快なジャズを小耳に挟みながら、目の前にあるタルトをつつく。


 本音をぶちまけ和やかになった空間で、すれ違いにすれ違い、私だけが一方的に加護のことを知らないと思い、色々と質問をする。


 ごはんは何が好きか、何色が好きか、犬派か猫派か。


 考えれば考えるほど、沢山の質問が頭に浮かぶ。


 加護はそんな私の声を静かに聞き一つ一つ丁寧に答え、それに準じて私の事も尋ね返す。


 相手に投げた言葉のボールを私に向けて一直線に投げ返してくる。これこそが言葉のキャッチボール。


 そんなこんなで話し込んでいると、焼肉打ち上げが始まる時間が迫り席を立つ。


 座っていた座席での出来事がとんでもない情報量で、まるでそれが夢だったのではないかという錯覚に陥りそうになる。


 それでも夢じゃないと感じさせてくれたのは、会計カウンターに向かうまでの間、ちょびりと手のさきを握られる感覚があったからだ。


 この少しの時間の中で何度も思うことがある。


 いざと言う時はガツンと言うくせに、何故こういう小さな事で奥手になるのか。


 普通は逆な気がするのだが、これも、加護が勇気を振り絞ってギリギリの状態で頑張っているのだと先程知ったのだが、それでも私にはとても出来ない芸当なので有難くこの時間を享受する。


 今日は一方的に奢られるなどされる前に、加護を押しのけながら何とか割り勘にまで持ち込め無事に支払い終える。


 外に出ると、喫茶店に入って来た時よりも日が傾き、そろそろ夕方と言ってもいい時間帯が迫ってきていた。



 ・

 ・

 ・


「それでは〜!文化祭お疲れ様ー!と言うのとオマケに!我々勉強部渾身の問題を打ち破った加護くんおめでとーかんぱぁぁぁい!」

「「「「かんぱーい!」」」」

「いや、どんな音頭じゃ」


 打ち上げ会場となる焼肉店の座敷に響き渡る百ちゃん先輩の乾杯音頭。


 時間ぴったりに始まった百ちゃん先輩提案、伊豆地先生協力の元行われる文化祭お疲れ様打ち上げ兼、私達勉強部四人で作った特別問題をたった一人正解することが出来た加護の祝賀会。


 きっと後者は百ちゃん先輩が今思いついた文言だと予想する。


「伊豆地先生もありがとうございまーーす!!」


「あざっす」

「「「ありがとうございます!!」」」

「はいはい、どういたしまして」


 しっかりと感謝の意を表する為、一同百ちゃん先輩と乾杯する伊豆地先生目掛けてお礼を言う。


「ま、一部負担じゃがな?」と烏龍茶を片手にグビりと一口口に含んだ伊豆地先生は、既に目の前に置いてある枝豆を摘んでいた。


 夕方の時間帯となり、焼肉店も他のお客さんで賑わい始め、ザワザワと喧騒が響く中、目の前の机上の中心にある網に向かい、予め取りに行っていた生肉を乗せていく。


 ジュワジュワと煙を上げながら焼かれていく様子を見つつ、定番の玉ねぎやピーマンも同時に乗せていく。


「ふぉおおお美味そー!!!」

「食べ放題で?食べ放題」

「宵〜元取れよ」


「まっかせて下さいよ!!」


 鼻腔をくすぐる香ばしい香りが漂い始めると、直ぐに朱利が反応し、早速どれを食べるか悩み始めていた。


 一方で私はと言うと、喜久先輩と共にトングを持ち鍋奉行ならぬ焼肉奉行となっていた。


 正直言うと、先程の喫茶店で食べたスイーツ達がまだお腹に少し残っているので、暫しクールタイムが必要な為進んでやっているのだ。


 何より朱利が食べ専になると思うので先に朱利のお腹をふくらませた後でちまちま頂こうかと思っている。


「ん〜美味しそうじゃなぁ〜」

「んね〜ほら加護、これカルビで。いる?」

「んー!欲しい!」


「おら〜食え食え」

「一星!!鶏も良いがそこのロースくれや!」

「はぁ〜?これ俺のじゃし〜」

「百ちゃん先輩こっちのあげますよ〜」

「やだ!朱利ちゃん良い子!!!」

「まるで俺が良い子じゃないかの様な言い方じゃ」

「ん〜?そうじゃが〜?」

「痴話喧嘩すんなよー(もぐもぐ)」


 一瞬にしてお肉の争奪戦になりながらも、楽しさ溢れる空間になり、この時間を噛み締める。


 と、そこで忘れてはいけないことを思い出し、先程ラッピングしてもらった紙袋を手に持ち、目の前に座る百ちゃん先輩と喜久先輩に手渡す。


「え!?なにこれなにこれ、どしたん??」

「お二人には出会ってからずっと良くしてもらって、お世話になっているお礼がしたくて」


「えぇ〜何この後輩〜」「百と違っていい子じゃなぁ」


 百ちゃん先輩から繰り出された鉄拳は喜久先輩にするりと華麗に躱される。


 喜久先輩が持っていた焼肉奉行の称号を一旦加護に預け二人は私が手渡した紙袋を漁る。


 喜んでくれるかどうかをドキドキとしながら、焦げないようお肉をひっくり返しながら待つ。


 すると、ラッピングを開封した二人の目は輝き、同時に目を見合わせお互いが手に持ったアクリルスタンドを近づける。


「きゃわわわわわわぁあああ」

「え、ガチの天才現る」


「それは、喜び……??」


「喜びじゃね」「可愛すぎじゃぁぁああ」


 イマイチ反応がどっちつかずなのか判断出来ず、尋ねてみれば、どうやらちゃんと喜んでくれたらしい。


「百合ありがとね」

「涼ちゃんありがとぉおお一生家宝にするぅう!!」

「いえいえ、大袈裟ですよ」


 百ちゃん先輩が音量を抑えつつも、今まで見たことのないほどの発狂している。


 こんなに使い物にならないぐらい悶絶しているのを目の前で見るに相当好みどストライクだったらしい。


 これには、改めて加護に感謝せねばと思い、左隣に座る彼の方へ顔を向ければ、既に満面の笑みでこちらを見ている顔があった。


「良かったじゃん」

「大成功でした」


 ピースサインをしてきたのを真似し、己もピースサインを作りくしゃりと破顔する。


 すると右隣に座り黙々とお肉を頬張っていた朱利がグッとこちらに寄りかかってくる。


「ほれぇ〜これも美味いぞ〜」


 にひひと笑いながら朱利の手によって焼肉のタレに付けられた豚バラが口元に突っ込まれた。


 なんだか酔っぱらいみたいな絡み方だなと思わず苦笑する。


「てか、加護さあの問題よく分かったな!?メモ書きすげ〜書いてあったし!」

「俺もめっちゃ頭捻ったんすよ!」


 一方の加護は、ステージ発表の時に垣間見たメモ書きが気になって気になってしょうがないという喜久先輩によって、色々と質問攻めにあっていた。


 横目にそのやり取りを聴きながら焼肉奉行を行い、それぞれ伊豆地先生、百ちゃん先輩、朱利へと焼肉を配る。


 ついでに自分にも一枚カルビを持ってこさせ咀嚼する。


 水分を取ろうとコップを持つも、残りが少なかったため一気に飲み干しドリンクバーへと向かう。


「うーん、やっぱ緑茶」


 先程と同じく緑茶を選択し、コポコポと注がれる液体を眺めていると、何やら後ろから抱きつかれ驚きにボタンを離す。


「わ!?」


 抱きつかれたものの正体は靴がまともに履けていない朱利だった。


 飲み物を汲みに来たのであれば、私が気を利かせて一緒に持ってくればよかったなと相変わらず視野が狭い自分にガッカリしていれば朱利は何やら口元に手を当て私の耳へと近づけてきた。


「龍二からは告白、されましたか」

「!?」


 その状況で言われるとは思ってもいない言葉に肩を震わせれば、察しの良い朱利にはもう答えを言ったも同然だった。


 にまりと笑った朱利が更に何かを言おうとこちらへと近づいてくると思えば、直後慌てたように加護がこちらに来るのが目に入った。


「ちょっ!!ばっか!!朱利!なんか余計なこと言ったじゃろ!?」

「んっふふーんもう少し聞きたかったけど朱利ちゃんはこれでも充〜分よ!」


「んでんで?二人はいつ付き合い始めるの??」


 朱利から告げられた言葉は、先程自分が少し気になっていた事項でもあるものの、いざそれを口に出されればそのような関係になり得る状況に来たのだと言う妙な実感が湧き、顔に熱が集まる。


「まっ!まだ友達からがいいな!!」

「そーね!まだ!友達が良い」


 同じことを思ったのか、加護と賛成し合い伝えた言葉は朱利にとって予想通りだったのか。


 眉根を下げてこちらを困ったような表情で「まだまだ先は長いね」と生暖かい視線で見つめられながら満足したのか、嬉しそうに席へと帰って行った。


 なんだか異様にむず痒くも、朱利のその言葉に否定も無しにただ照れたように口を抑えた加護に今後の期待に胸が高鳴り嬉しさを感じた。


「いつかは恋人になるのね」


 ボソリと加護だけに聞こえるよう呟けば、茹でダコのように真っ赤になった加護は目いっぱいに目を開き顔を背ける。


 これもまた否定の言葉を紡がなかったことを良い事に、勝手に良い方向へと考える事にする。


 こんな、ささやかな事で心が揺らぎ、嬉しさで歓喜に満ち溢れる。


 幸せいっぱいの陽だまりのような元で人生を歩んでいける事が堪らなく待ち遠しい。


 それはまるで、親から一身に受ける無償の愛情を享受しながら穏やかに生きる赤子のよう。


 自身の居場所を求め続けた私に与えられたのは、このゆりかごのような。





 そんな安らかな居場所で成長し、恋した彼と共に生きていけたら、それに勝る幸せなど無いだろう。

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