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75.俺は薬屋なんだが

「今いる子供は?」

「7人。私についていた3人を除いて。」

「今後増える可能性もあるわよね?」

「見込みはなかったけど、もし建て替えられたなら十分あると思うわ。」

(だよねぇ。許容人数をどこまでにするかが問題よね。)

アデルに現状を確認しながら、マーレは内容を整理していた。

(一人一部屋は現実的じゃない。)

(相部屋と大きな食堂。)

(生活空間が、自宅とは全然違うわね。)


「どうかしました?」

考え込んでいたマーレに、アデルが心配そうに声をかける。

「あぁ、ごめん。ちょっと間取りを考えていて。人数が多いと個室ってわけにはいかないと思うの。そこは妥協して欲しい。」

「もちろん。後、出来れば教室の様な部屋があったら嬉しい。」

「そうか!」

(盲点だったわ。子供たちが勉強する場所も必要なのよね。)


「ねぇアデル。内容を詰めるために、何度か来てもいい?」

今確認しただけの内容では絶対詰まって進まない。

そう思うと、マーレは提案した。

「構わないわ。必要なら、私から行ってもいいし。」

「あ、その方が助かる。多分私、動けなくなりそうだし。」

「じゃぁ、定例じゃないけど定期的に行くようにするわ。」

「うん、助かる。」





「かっけぇな。」

マーレを待っている間、外でうんこ座りをしながら煙草を吸っていると、小僧が近付いて来てそんな事を言った。

ガキは興味無いんだがな。

性別問わず。

が、邪険にするとマーレに何を言われるかわからんな。

グーは痛ぇし。

「だろ。王都で流行ってんだ。」

「ほんとか!?」

王都は嘘だけどな。

「リア、適当な事を言わないでよ。」

同じく隣で吸っているディディが呆れた目を向けてくる。

まてよ、王女がやっているんだから、これはもう王都で流行っているでいいんじゃないか?


それより。

「お前は座って吸えよ。」

「え、何で?」

同じ様に座って吸っているディディに呆れた目を返しておく。

何で?

じゃねぇわ!

よく言えるな、アホか。

王女だよ!

お前は。

「立場を考えろ。」

「うん。ここではみんな平等よ。」

・・・

「誰もお前の理念なんか聞いてねぇ。周りの目にどう映るか考えろって言ってんだ。」

「言われてみればそうよね。どう言おうと、私は王女として見られてしまう。」

その通りだよ。

ディディは言うと、渋々立ち上がって座れそうな場所を見つけると腰かけた。


「それ、俺もやってみてぇ。」

「止めとけ。」

キセルを指差して言うガキを睨む。

これがなんなのか、知らないうちは手を出すもんじゃねぇ。

「何でだよ?」

「まぁ、毒みたいなもんだ。ガキの間はやらない方がいい。」

「お前も変わんないじゃないか。」

だよなぁ。

もっと育った身体が良かったぜ。


「吸って見ろ。」

言ってもわからねぇ奴は、身を以て知ればいい。

ガキは大きく吸い込んだ。

馬鹿め。

「うっほ、げほっ!!うぅ・・・げほ・・・」

目に涙を浮かべ苦しそうに咳込んでいるガキに冷めた目を向ける。

「なんで、こんなもの・・・」

「だから止めとけって言ったんだ。」

「・・・」

「見た目だけで決めんな。先ず、それが何なのか知るところから始めるんだな。」

と言ってもな。

「子供って興味と実行が先だからねぇ。」

うるせぇよ。

わかってるわ。

「わかった。今は、止めておく。」

「あぁ、そうしろ。」


ってかマーレはまだか?

そう思って、孤児院の出入り口に目を向けたらちょうど出て来た。

「さて、そろそろ帰るか。」

「うん。まだ始まったばかり、自治領まで遠いわね。それまでよろしく。」

・・・

「もう関わらん。俺の仕事は終わった筈だ。」

「えぇ、最後まで付き合いなさいよ。」

ふざけんな!

俺はお前の小間使いじゃねぇっての。

「俺は俺で仕事してんだ。宮仕えじゃねぇ。」

「そっか。そうよね。つい、都合がいいから・・・」

話しやすいってのも困りもんだな。

だから余計なコミュニティなんか要らねぇって事なんだよ。

良し悪しはあるにせよ、振り回されるくらいなら無い方が良い。







「邪魔するぞ。」

ボーレヌグ領から戻って数日、平穏ではあった。

たまにサーラが来ては予行演習とか言って、店番をしたり。

その間、ユアナには簡単な粉末の作り方を教えたり。

これに関しては、アニタが使う用なんだが。

薬に使う分に関してはまだ任せられん。

どちらかと言えば、今後はアロマの制作も覚えさせたいところだ。

そっちの方が遥かに手間だからな。


・・・

俺は店の奥に移動する。

「何で自分の家のごとく上がり込んで座ってやがんだ。」

「店の中に私が立っていては、他の客に迷惑かと思ってな。」

まぁ、そうだろうよ。

委縮されても困るしな。

いや、王都の有力貴族も店を利用している、という点ではありなんじゃねぇか?

宣伝効果も高まるかもしれん。

「それと、不思議とリア殿には気を遣わなくてもと、思っているのかもしれん。」

それは良いんだが。

「最低限の言葉は必要だろうが。話しがあるから奥に入っていいか?とか。」

「うむ、言われてみればそうだな。配慮が足りなかったようだ。」

だんだん、ユーリウスがポンコツ貴族に見えてきたぜ。

とはいえ、有力貴族である事実が変わるわけじゃない。

利用できるものは利用しないとな。


「リアさんはいます?」

呼び鈴がなった後、そんな声が聞こえた。

俺が聞き間違えるわけがない。

俺の果実!!

俺はすぐに店内に移動した。

「何をしておりますの?」

「久々の再開だ、挨拶くらいするだろう。」

抱き着いた俺を引き剥がして冷めた目を向けて来る。

いつも見ても良い。

「言うほど久々ではありませんわ。」

いや、三日も会わなかったら久々だぞ。

「それより、相談がありますの。奥でもよくて?」

「あぁ。構わないが邪魔者が居るな。」

「先客ですの?」

客ではない。

断じて。


となると、二人の時間には邪魔だな、帰ってもらうか。

「あらユーリウス卿。」

「これはメイニ殿。要件は同じと考えてよろしいかな。」

「えぇ。ちょうどいいですわね。」

俺が考えていると、メイニは既に移動しておっさんとそんな会話をしていた。

という事は、二人の話しは同じ内容って事か?


「何か共通の話題か?」

俺は紅茶の準備をしながら二人に確認する。

「そうだ。ちょっと困った問題が起きておってな。」

「えぇ。商会にも被害が出ておりますの。わたくしも困ってますわ。」

うーん。

話しはまったく見えないが。

ユーリウスまで絡んできてるとなると、治安とかそっち方面か?

一介の薬屋が絡む話しじゃない気がするな。


「で、具体的には?」

お茶を用意して茶菓子も出し、俺は座るとキセルに煙草を詰めながら聞く。

「リア殿は、城下町の北部へ行った事は?」

「無い。」

王城から北は未開の地だな。

貴族領へ移動する時に通ったかもしれんが、そういう時は馬車の中だから知らん。

「このアイエル地区がある南側は治安が良いんですの。」

「つまり、返せば北側は良くないと?」

「そこまで極端な差があるわけではない。」

俺の言葉に、ユーリウスは首を振った。

「多少、という程度ですわ。」

多少がどの程度の差なのか判断は出来ないが。


「本来、街中に住む筈のないゴブリンが、とある屋敷に居ついてな。」

よし、エリサの出番だな。

「何か問題が?」

人間以外が街中に住んだと言われても、俺にとってはふーんでしかない。

「人間と共謀する事が稀なんですの。彼らは基本、欲望のままに行動しますわ。警戒心が強い事から、報復を回避するために街中に住む事はまずありませんの。」

なるほど。

言われてから思ったが、確かに見た事は無いな。

何度か戦った事はあるが、ろくなもんじゃねぇ。

人間の法なんて関係ないから、やりたい放題だったしな。


「その通りだ。ところが、どうもゴブリン共は統制されておってな。住処としている屋敷にはトロルも居る。」

物騒だな。

一度対峙した事はあるが、あれは確かに恐い。

まぁ、話してみるとそうでもなかったんだが、それは個体差の範疇だろう。

「討伐すればいいじゃねぇか。」

「無論、そのつもりでゼフトとも話しを進めたのだが・・・」

ユーリウスは言うと顔を曇らせる。

面倒だな。

「数が多いため、わたくしの私兵では対処できませんわ。」

それはさておき。

メイニが手伝ってと言えば手伝う。

おっさんに言われると断るがな。


「つまり、討伐隊を差し向けるのに反対している貴族が居て、その貴族がそのゴブリン共と繋がっているとかか?」

権力者の話しなんてどうせそんな事だろうよ。

と思って言ってみたら、ユーリウスが驚きの目を向けてくる。

つまり、ビンゴって事かよ。

「リア殿はそんな事まで見通せるのか!?」

見通してねぇわ!

話しの流れから容易に想定可能な内容だよな?

と、言うのも面倒くせぇ。

「そんなもん、ディディにやらせればいいだろうが。」

「ボーレヌグ領の件がある。片がつくまでは他の件に関わる事を国王より禁じられてな。」

自治領の件か。

ますます面倒だな、アホ女め。


「で、薬屋の俺に何をしろと?」

「うむ。掃除を頼みたい。」

・・・

除草剤でも撒けばいいか?

「範疇じゃねぇな。エリサにでも頼めよ。」

「リア殿からなんとか。」

まぁいいか。

「具体的な話しは?」

「私の方の段取りもある。兵を動かす必要もあるし、ゼフトとの調整も必要だ。被害が出ているため、早急な対応が必要ではあるが、詳細については後日詰めたい。」

「あぁ、わかった。」

本来なら関わる必要も無い気はするが、城下町の治安に関してはそうも言ってられない。

俺の新店舗もこの土地に建てるわけだからな。

他人事にして何かあってからでは遅い。

「助かる。また明日にでも来る。詳細はその時にでも。こちらも話しを進めておく。」

「あぁ。」

「メイニ殿もそれで良いか?」

「えぇ、構いませんわ。」


ユーリウスは確認が終わると、早々に引き上げて行った。

おそらく、本当に忙しいんだろうな。

「で、本題は?」

「あら、察しがいいですわね。」

と言って、メイニは笑みを浮かべるとキセルを取り出した。

その笑みはありって事ですか!?

本題は二人きりの時間と思っていいんですか!?

俺は椅子から立ち上がると、メイニに近付き肩に手を回した。

「待たせたな。」

「戻ってくださる?話しづらいですわ。」

・・・

うん、知ってた。



「ユーリウス卿の話しの続きになりますわ。」

「へぇ。まぁあのおっさん、堅物というか、融通が利かないというか。真面目ではあるんだがな。」

「仰る通りですわ。」

俺に害が無ければなんでもいいが。

「で?」

「この件、確かに裏で糸を引いているのは貴族ですの。」

だろうな。

「ベクセイル領、フィルド子爵。」

また、どこから仕入れてくるんだろうな。

「小者ですわ。」

そうかい。

「その小者がなんだってんだ?」

「北側にある屋敷を、子爵が買い取っています。そこが拠点ですわね。」

「あぁ。ゴブリンがいるところか。」

「えぇ。人攫いや物資強奪と、やっている事は程度の低い事ですが、大物は狙いません。」

せこ・・・

おそらくあれだろうな。

「自分に目を向けられたくないんだろ。」


「必要なものだけ見繕って、夜中にベクセイル領に運んでいるのですわ。」

「となると、不要な物は屋敷に?」

「えぇ。ただ、あくまでゴブリンがやった事のため、子爵へは辿り着きません。」

なるほど。

小悪党って感じだな。

だが、必要な物を持ってっているなら、現物は自分の領にあるわけだ。

それを突き止めれば言い逃れは出来ないだろう。

いや、違うな。

「ゴブリンから奪ったものと言って逃げる事は可能か。」

「そうですわ。」

「で、何故子爵の話しを?追い詰めたいのならユーリウスに言えばいいだけだよな。」

俺に個別で話す必要は無い。


「つまり、手を出しておいてただではすまさん。って事か?」

笑みを浮かべながら俺を見るメイニを見て思った。

今までの流れからすれば、直接手を下してきたのだから。

「やはり、察してくださいましたわ。」

待ってんじゃねぇよ。

「それに、リアさんも無関係じゃありませんわよ。」

「どういう事だ?」

「積み荷に、アロマ用の陶器も含まれていたんですの。」

なんてこった。

許さん。

「俺に喧嘩を売るとはいい度胸だな。俺のメイニに手を出した事を後悔させてやる。」

「リアさんのものじゃありませんわ。」

くぅ・・・

毎回きっちり否定しやがる。

いつか、いつかものにしてやるぜ!


「決行日は?」

「ユーリウス卿次第。」

あ、そっか。

そっちがメインだよな。

「ユーリウス側は任せておいて、別働としてベクセイル領に向かう?」

確認するとメイニが頷いた。

「となると、エリサはユーリウスに任せるか。ゴブリン退治だけなら俺がいく必要はない。」

行っても役に立たないが正解だけどな。

「殺るのか?」

「いえ。やむを得ない場合はそうしますが、ボーレヌグに続き立て続けに貴族が死ぬ事態は要らぬ懸念を生みます。」

あぁ、言われてみればそんな事もあったな。

俺が関与しているところまで把握されてそうだ。


「いっそ貴族とか廃止しちまえばいいのに。」

国内で税率を一律にすれば要らないじゃん。

「王室では全域を管理しきれません。それに、廃止という事になれば貴族の既得権益を侵害するとして諸侯連中が黙っておりませんわ。」

うわ、めんどくさ。

「地域格差もあるため、居なければ居ないで反発も生まれます。」

必要なんだな。

地域格差か、確かに一律にしてしまうと納められる地域と納められない地域が出てくるのか。

そうなると、昔の日本じゃないが一揆とか起きそうだな。

って、そんな事は俺が考える事じゃねぇ。


「それはさておき、二度とわたくしに手を出させない様にしたいですわ。」

って考えると、面倒だな。

相手にもよるが、難しい話しだ。

「決行日までに考えるか。」

「そうですわね。」

一段落着いたところで、俺は新しい煙草をキセルに詰め込む。

「それと、近いうちに資材は搬入可能になりますので、現地で受け取ってもらえます?」

「わかった、マーレに伝えておこう。」

「お願いしますわ。」




「リアちゃんって、本当に面倒事ばかり来るわね。」

メイニを見送ると、ユアナがそんな事を言ってきた。

揉んでやろうか。

「好きでやってんじゃねぇ・・・」

俺は平穏に楽しく暮らしたいだけなんだがな。

資金稼ぎに始めた裏の仕事も、良かったのか悪かったのか。


考えても仕方ない。

そのおかげで今がある事は事実だしな。







-神都ヴァルハンデス-


「・・・」

ソアは羊皮紙を見ながら、無言で眉間に皺を寄せた。

(どういう事だ?またも啓示の内容が変化している。)

本来であれば、啓示の内容が変わるなど、ここまで頻繁に起きる事態ではない。

啓示も定期的に取得し、状況に変化が無い事を確認するのみが通例だった。

だが、最近の目まぐるしい変化に、取得頻度は高くなっている。


そう思うと、やはり特異点が存在するのだろうと思わざるを得なかった。

(もう一度確認に行くしかないか・・・)

少なくとも、ローラ・マクレディについてはレアネに確認しておこうとソアは考えた。

(クソ駄神の事だから覚えてない可能性は高いが・・・)

苦虫を噛み潰す様な表情をして、ソアは水鏡を出現させた。


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